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吉穂みらい『ナユタ』を読む #文学フリマで買った本

 今週は夫の単身赴任先に来ています。
 普段と違う場所にいるので、違う本を読みたいと思って、ここに来る時は今読んでいる本を中断して別の本を読むことにしているのですが、今回はnote仲間の吉穂みらいさんの『ナユタ』を持ってきました。

 『ナユタ』は先月の文フリでも大人気で、完売した本です。アルデバランという星を舞台にしたシリーズの一冊なのですが、500ページを超える分量のうち、私が今日までに読んだのは300ページほどです。
 
 すごいですよね、アルデバランシリーズ…自宅に戻ってカタログを見ればはっきりした数がわかるのですが&吉穂さんの公式ページにはシリーズ全体の見取り図があったような気がするのですが検索できず…なので、ほわっとした数字になってしまいますが、少なくとも文庫本十数冊はあるシリーズです。そんな大きな世界を創作なさったとは。

 長い小説が好きなので、数世代にわたる人間模様を書いた大河小説やシリーズ物も大好きです。その中でも、『ナユタ』のような架空の場所を舞台にしたシリーズといえば、『指輪物語』と『七王国の玉座』(『七王国』はドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』の原作です)を思い出します。どちらも没入感がすごく、読んでいる間は現実の世界を忘れてしまいます。

 読むだけでなく、自分でも架空の場所を舞台とする物語を作りました。子どもの頃からイギリスの歴史や文化、小説が好きだったので、ヨーロッパ風の国に住むエリザベスという少女を中心とした年代記のようなものを書いていた記憶があります。中一頃まで書いていたはずです。
 その後も、高校時代には石田三成や新選組が勝ったパラレルワールドの歴史小説を書いたり、少し前にも『七王国』の二次創作を家族と作ったり(これは文章ではなく語りで)しました。
 ですが、どれも断片に過ぎず、クオリティー的にも、その場の楽しみとして消費できれば十分、というレベルだったと思います。

 自分で試みたことがあるだけに、自分の頭の中にある世界を小説としてまとめるのがどれほど大変なことか少しはわかります。吉穂さんはそれを成し遂げたのです。十数冊に及ぶ分量で。しかも、それを本という形にして、自分以外の人にも、その世界を分け与えて下さった。これを偉業と呼ばずしてなんと呼ぶ、と断言したいと思います。
 
     *

 それほど大きな物語なので、まだ1冊目の300ページしか読んでいない私は、その世界の片隅をチラ見しただけです。
 ただ、今の時点でも、このアルデバランシリーズが、個人の物語でありながら、時に過去にさかのぼり、その過去が現代にも影響を及ぼすような、スケールの大きな物語であるのはわかります。

 若い頃は、自分が一人の独立した人間だと考えていました。都会の核家庭に生まれたので、親戚とは年に何度か会うだけ、身近にいる両親や祖母と自分の間にもあまり似ている部分を感じませんでした(遺憾ながら、顔は父親に似ていますが)。
 今も、自分を背景のないオリジナルな人間と考えたい気持ちはあります。しかし、過去に生きた人たちのエッセンスが自分の中にあることも、自然と認められるようになってきました。

 我が家は父方も母方も無名人の集まりなので、「過去のエッセンス」という言葉もイメージでしかありません。
 でも、前に書いたように夫の先祖が森鷗外の小説に出てくる画家で、他にも作家の中村真一郎がその先祖について本を出していたり、先祖の描いた絵が残っていたりするので、先祖がどんな人なのか多少は知る術があります。先祖の絵の才能は夫に全く受け継がれていないのですが、その他の部分で夫にかなり似ている点があり、今を生きる個人の物語が江戸時代に生きた人の物語とリンクするのを実感しています。

 なので、『ナユタ』の冒頭部ーー二十歳のナユタが父親の過去の歴史を知ったことで、静かに安定していた彼女の世界に変化が訪れるという物語は、とてもリアルに感じられ、一気に作品世界に引き込まれました。
 
 冒頭部からしばらくは、そんな具合に、今を生きるナユタと過去の先祖の物語がリンクし、暴力要素のないゲースロ(『ゲーム・オブ・スローンズ』)を読むようなワクワク感を味わっていたのですが、そこから物語の空気感が変化して、今読んでいる部分は、大人っぽいコバルト文庫を想起させる展開になっています。
 といっても、親が厳しく、ロクに小遣いをもらえなかった私はコバルト文庫に憧れながらも、ほとんど読んだことがないのですが…ちゃんと読んだのは、友達に借りた『アグネス白書』シリーズだけなので、この雰囲気が本当にコバルト文庫に似ているのかは定かではありません。でも、おばさんである私にとって、若い頃の甘く、時にほろ苦い気持ちを思い出させてくれる物語なのは間違いないです。
 いや、よく考えてみれば、甘い恋にしろほろ苦い恋にしろ、ほぼ経験した覚えはないのですが、「私にも、こんな時があった」と錯覚させてしまうほどの物語の力が『ナユタ』にはあります。
  

 金曜日には帰京するので、全部は読めないと思いますが、これからも、茨城滞在時の楽しみとして、吉穂さんの小説を読み進めていきたいです。

アルデバランシリーズの全体像がわかる記事。

神保町の棚貸し本屋PAASAGEbis!にある吉穂堂の案内。文フリ以外の時期は、吉穂さんの本はここで購入できます。通販あり。


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