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ひよこ日記、気がつけば一周年。

仕事に忙殺の毎日。で、あるが、アルベルトは最近何か私に隠れてコソコソしている。隠しごとに長けているアルベルトが私にうっすら分からせるように隠しごとしている事が気にかかるが、聞いてみたところで教えてくれるわけがないのでなんか私したっけ?と休み時間とかに唸って考えてみたりする。自称相棒のフレッドに聞いてみたものの、そんなの本人に聞いてみりゃいいじゃねえかとテキトーな返事をよこすのでますます私は何かやらかしたんではないだろうか。今迄散々振り回してきたからアルベルトは醒めたのかもしれない。自業自得とはこういうことなのだろうか。好きにしたらいいよ。を拡大解釈しすぎたのだろうか。

金木犀がますます香りが強まる最近のシーズン。会社帰りやレッスン帰りに少し寄り道したりしてふんだんに金木犀の花の香りをスウハアして香りをめいっぱい肺に満たしてはなんて素敵な香りなんだろうと高級住宅街の道を何往復もして不審者扱いされないだろうかとチラと頭をよぎる。そんな私の足元はついこの間奮発して買ったイタリアのブーツだ。お店に飾られていたそれにひとめぼれし、何度も何度もそのお店に寄っては試着したり値段を穴が空くほど見つめてみたり、この値段は妥当なのか?とその時一緒にいたフレッドに質問し、さらにメンテナンスや修理するときはどこに頼むのか?などなどを店員さんにしつこく聞いたり。そんな気に入っていれば買えばいいじゃん。フレッドはいうが、わたしの資金は無限ではないので、よくよく考えてクローゼットを片っ端からチェックして、似合いそうな洋服をあれこれ引っ張りだし、フレッドにこれにあれは似合うか?を質問攻めにし、あー、似合う似合う。似合うからもう買え、おまえ、さっさと買わないとああいうのはさっさと売れちまうぞ。と言われ、ならばとアルベルトについてきてもらってこれどう思う?と尋ね、ひよこちゃんに良く似合うよ。と満点のスマイルをもらったため、思いきって購入したのだった。僕が買うよ。とアルベルトは言ってくれたが、これは自分のお金で買いたかったものだから。と言うと、いい心がけだねと言ってくれ、じゃあお出かけした記念にこれに合うスカートを一枚僕に選ばせてくれる?と自分じゃ選ばないようなフワッフワな生地の女子力アゲ満点なミニスカートを買ってくれた。
やあ、これでひよこちゃんがますます可愛く見えるなあとアルベルトは満足げに頷いていた。
なのにー。あれは幻だったのだろうか。
いい感じな日曜日のお出かけだったのになあ…。

少しだけモヤっとしている私に金木犀の花の香りはやさーしく励ましてくれる。あともう一往復したらうちに帰ろう。そう考えていたら電話がなった。

ひよこちゃん、レッスン終わったんでしょ?どこにいるの?迎えに来たけどいないから。

!!げっ!すっかり忘れていた。

あ、あー!ごめんね。今あの金木犀の花がいっぱい咲いてるあの通りにいるの。

…?金木犀?うーんとそれはあの住宅街の通りのこと?

そうそう!いい匂いだから忘れられなくて嗅ぎにきたの。

そっちに行くから待っててくれる?
というか夜だからあんまり一人でウロウロしないで。いい?すぐに行くから。…そうだあのカフェに入っててもらえる?すぐに行くから!

わかった

おこられちった。いい年した女が子どものように扱われるのはいかがなものか。いやいや大事にしてくれている証拠だ。とネガティブ思考をポジティブ思考に切り替えて、カフェに入っていつものアップルタイザーを頼んだ。
ほんとにものの数分後にアルベルトは現れた。
どうやって移動したんだこの人は。

よかった居た。
当たり前じゃない。

もしものことがあったらどうしようかと思ったよ

大げさよ?

そんなことないよ。

それ飲んだら出ようか。
じゃぁ半分あげる

ありがとう

ひよこちゃんは金木犀の花の香りが大好きだったことすっかり頭から抜けていたよ。
アルベルトは笑って手を繋いできた。
ゆっくりと住宅街を散歩する。

一年に一回しか嗅げないのよ。忘れないようにいっぱい吸い込んでおかなくちゃ。

ふふっそうだね。

ひよこちゃん覚えてる?

ん?

この道

うん

一年前も金木犀が咲いてた

僕ら一年経ったよ

いつもずっと一緒にいるよ?

そうだけど。特別な一年だったよ。
届けを出して一年経ったよ。

!!あーっ!そうだ

だからね。お祝いしたくていろいろ探してたんだ

だからコソコソしてたの?わかるように

わかるようにはアレだけど。まあ、覚えててくれたら嬉しいなって

ごめんね、変なふうに疑っちゃった

変なふうに?

飽きたのかなーとかわがまま言いすぎて冷めちゃったのかなーとか。

あるわけないでしょう

もう一年経ったんだねえ。どうだった?ちゃんとできてた?わたし

できてるもなにも。いつもたくさんの愛をくれてるじゃないか。

よかった。

ちゃんとお祝いしよう。二人で。毎年、金木犀の時期にお祝いしよう。

うん

そのブーツやっぱり似合うね。

すごく悩んで買ったんだもん。似合わないなんて今更言わないでね?

もちろんだよ

あと一往復したら戻ろうか。夕ご飯が待ってるよ。

今日なーに?

フレッドがクラムチャウダー作っているよ。

やった!

じゃぁパティスリーに寄ってモンブラン好きなあの人にモンブラン買って帰ろう?私達はガトーショコラね。

いいよ。そうしよう

大好きないい匂いの季節で、お祝いしたいと探してくれる人がいて夕ご飯を一緒に食べてくれる人がいて、デザートの好みを知っていて、おはようからお休みを言い合える人がいて、わたしは幸せモノだと思うんだー。

僕はひよこちゃんのそういうところが大好きだよ。また特別な一年を一緒に過ごそうね。

うん。





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