見出し画像

天体観測、ローズガーデンでキーツを諳んじる


その日はとても天体観測にはうってつけの日だった。ヒースの丘から帰り、家でディナーを食べ天体望遠鏡や星座盤、ランタンやいろいろを準備していると、メイド長のマギーがしきりにひよこ様を冷やしてはいけませんよ。というのでひよこに長袖のシャツ持ってきてるか?と聞くと持って来てないというのでサイズがずいぶん違うが自分のフランネルのチェックのシャツを貸した。

みて!お父さんの服を借りたこどもみたいになってる!とひよこは一人で鏡をみてゲラゲラ笑っている。

身長が15センチ以上違うのでまあそうなるよなというかな、それは彼シャツって巷ではいうんじゃないのか?お父さんてなんだよと突っ込んでおいた。

折しもその日はペルセウス座流星群の日。天気予報をチェックしていたら今日がちょうどその日だったのだ。去年のその日もビーチでペルセウス座流星群をみた。来年も見れたらいいな。

寝袋を敷いてさらにその上から敷物を引き、ブランケットをかけて寝転がって星を眺めた。ヒュンヒュンと流星が流れてく

あっ!あった!あっちも!みてフレッド!みた?キレイねえ。あっ!願い事しそこなった!次こそ!んー、はやいんだってば!

お前星にまで無茶ぶりすんなよ

だって!

フレッドは願い事しないの?
いや、するけど…あっ!…よし!
うそー!なんでー?

夜中なのに張り切って星を眺めてる。ただそれだけなのに、ただそれだけだけど。特別な思い出になるのかもしれない。いつか

次の日も特別でかける用事はなく
天気もよいのでガーデンにいた。
テラスに戻るのも面倒なのでピクニックスタイルにしてもらう。客人も来ないので芝生にひっくり返っている。

そういえばな
うん
あれから本棚みたらキーツが出てきたんだ

キーツ?

ああ。知らない?

名前は聞いたことある。テニスンにキーツ、バイロン。詩人よね?

懐かしくてな。ほらこれ

わあ…お宝じゃない

こういうのを暗唱するのが当時の流行りだったんだ。

今でも言えるの?

どうだろう

ひよこはページをパラパラとめくると
わー、これ、わたしの拙い英語で朗読したらせっかくの詩が悲しむわ。フレッド朗読して?

いま?

みんなが来てるときでもいいよ?

そっちのほうがやだね

ねえ、優雅じゃない?

なにが?

ローズガーデンでキーツの詩なんて

そうか?

えっとわたしこれ読んで?

読んでもらう前提なんだな、どれだよ

これ

ああ、これか

んー、イギリスに来たって感じがすごくするわ。目を瞑って聞いてみることにする

久しぶりすぎて失敗しても知らないぞ?

大丈夫大丈夫。わたしなんてはなから読みこなせないもの。イケメンにキーツ読んでもらうなんてぜいたくう

はいはい。じゃあ読むぞ

うん

Endymion

John Keats

A thing of beauty is a joy for ever:
Its loveliness increases; it will never
Pass into nothingness; but still will keep
A bower quiet for us, and a sleep
Full of sweet dreams, and health, and quiet breathing

Therefore, on every morrow, are we wreathing
A flowery band to bind us to the earth,
Spite of despondence, of the inhuman dearth
Of noble natures, of the gloomy days,
Of all the unhealthy and o'er-darkened ways
Made for our searching: yes, in spite of all,

Some shape of beauty moves away the pall
From our dark spirits. Such the sun, the moon,
Trees old and young, sprouting a shady boon
For simple sheep; and such are daffodils
With the green world they live in; and cleasr rills
That for themselves a cooling covert make
Gainst the hot season; the mid forest brake,
Rich with a sprinkling of fair musk-rose blooms:

And such too is the grandeur of the dooms
We have imagined for the mighty dead;
All lovely tales that we have heard or read:
An endless fountain of immortal drink,
Pouring unto us from the heaven's brink.

エンディミオン
ジョン・キーツ
美しいものは永遠の喜びだ
それは日ごとに美しさを増し
決して色あせることがない
わたしたちに安らぎをもたらし
夢多く健康で静かな眠りを与えてくれる

それ故毎朝わたしたちは花輪を編み
自分たちを大地に結び付けるのだ
落胆していようとも 暗澹とした日々に
生きるのがままならないとも
なにもかもが意に反して
むしゃくしゃしていようとも

わたしたちの心の暗闇から不吉なものを
追い払ってくれる美しさがある 
太陽や月の美しさがそうだ
また若葉を芽吹いて繁みとなる木々
緑に包まれてのびのびと咲く水仙たち
灼熱の季節にも自分のために
涼しさを生み出す小川の流れ
麝香バラの咲き乱れる森の繁み

またわたしたちが偉大な死者について
思い描く運命の壮大さや
聞いたり読んだりした美しい物語の数々
天空の一端からわたしたちに降り注ぐ
不死の飲み物の尽きせぬ泉に 
そんな美しさを感ずるのだ

(出典: 壺齋散人訳 English Poetry and Literature)

読んだぞ

ねえ、すっごく上手ね

そうか?

フレッドはロマンチストていうのがわかったわ

なんだよそれ

秘密にしてあげる。教えてあげられないわ、もったいなくて

それはどうも。

わたしにもこういうの読めるかしら?

古典?

うん

興味もった?

言葉が美しいから

そうだな。

ふたりの秘密にしましょ。

…そうだな

午後3時のローズガーデンは静かで薔薇の良い香りがする


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?