労働人間
21XX年
僕は畑で人間を育てている。
昔はAIブームで労働を人工知能付きの機械などにさせていたが、時代が一巡して、やはり人間が持つ温かみにも需要が多くなってきた。
そこで国を挙げて『労働用の人間を育てよう』という計画が立てられ、瞬く間に実行された。
中学校の道徳の授業では、『人間には2種類います。“好きなことをして暮らせる人間”と“ただ労働のみをする人間”です。』というようなことを繰り返し教えてもらった。
そして“人間学”という授業数が圧倒的割合を占めていた。
その授業では、“労働人間”をどのように育てるかということを学んだ。
畑で人間を育てるのがおすすめらしい。
イケメンや美女を育てるためには、市販の“美貌血液”を購入し、一月に一回与えてやればいい。
優しい人間を育てるには、“優しい血液”を与えれば良い。
血液には様々な種類の効用がある。
その中でも、“革命血液”というものがあった。
これを与えるとこの世の中を革命しようという意志を持って生まれるため、世の中に与える功績は絶大だという期待ができる。
成人人間を育てるには、普通の人間と同じく20年を要する。しかし、“急速栄養剤”を使えば半分の10年で育てることができる。
うまく育つかは五分五分だ。
仮に10年かけて育てて失敗作が出来上がるとなると残念でならない。
だから今は100人くらいをひとつの畑で育てていくのが主流となっている。
僕はといえば、急速栄養剤を使ったので、あと少しで成人する。
畑から出すまで、どんな顔•体型•性格の人間なのかは分からない。
言葉や思想、歴史や算数など働く上で必要そうな知識なども栄養剤としてこの10年間でたっぷり与えてきた。
どんな人間が出てくるのか、ワクワクが止まらない。
-数日後-
ちょうど10年経ち、成人の時を迎えた。
ついにこの日がやってきたかと思い、一人一人丁寧に畑から出した。
まさかの100人ともちゃんと人間として出てきた。
こんなにうまく育ってくれたとは。
そしてその全ての人が美男美女であった。
今まで育てるのが大変だったけど、続けてきた甲斐があった。
これからはこの100人に労働してもらい、お金を稼いでもらおう。
既に働き口は手配してあるので、早速明日にでも挨拶回りに行こう。
-翌日-
僕が育ててきた100人の姿が見えない。
焦った。どこに行ったのだろう。
スマートフォンに100人のうちの1人からメッセージが届いていた。
『いきなりいなくなって、驚かせてしまってすいません。私たちを育ててくれたお礼にサプライズがしたかったのです。明日にはプレゼントが届きますので、お楽しみに。』
そうだったのか。予想外の展開ではあったが、さすが流石僕が育ててきただけはある。よく思い出してみると、“サプライズ栄養剤”も何度か与えていた。
明日を心待ちに、心躍らせながら1日を過ごした。
-翌朝-
何のプレゼントがあるんだろう。
そう思った矢先に100人の内の1人からメッセージが届いた。
『郵便受けにプレゼントが届いてますので、ご確認ください!』
玄関の郵便受けに向かう。そこには白い箱があった。
開けてみると、『押すと未来が変わります』と書かれた赤いボタンが入っていた。
なんの躊躇もなく、そのボタンを押してみた。
僕は土の中にいた。
あれ?なんで僕はここにいるんだろう?
真っ暗で何も見えない。
そして上から液体が流れてきて僕の体はそれを吸収していった。
こんなところでじっとなんてしてられない。
水を掻くように地上へと土を掻き分け、上に上に上がっていった。
ようやく顔を土の中から出すことができた。
そこには僕が育てたはずの100人の姿があった。
そのうちの1人が口を開いた。
「この世界にようこそ。労働人間さん。」
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