見出し画像

吸血鬼村

今日もこの村に人間が現れた。

またか。

最近人間たちは“人工太陽”を開発し、吸血鬼村を訪れては、人工太陽を取付け、村から吸血鬼を絶滅させようとしている。

今までに幾つもの村が絶滅させられてきた。

以前も僕が住むこの村へ人間がやってきて人工太陽を設置しようとしたが、なんとか村のみんなでそれを防いだ。

人間たちはいつも、笑いながらやってくる。

退屈な日々に抗うための、刺激を享受する1つの手段として「吸血鬼狩り」をしているのだろう。

僕たちにも家族があり、友がある。大切な人たちに囲まれて生活できるこの幸せを人間に壊されるわけにはいかない。

最近は人間の血を吸わなくとも、技術の発展により、血液を生成出来る。

だから人間には何もしていないのだが、、、。

人間は強欲である。
他の命を奪うことを、自らの退屈な時間と戦う術としている。

さて。
今日現れた人間は何をするために来たのだろうか。
監視カメラにその人間はずっと映し出されている。

カバンから何やら小さな白い星のようなものを取り出した。光り輝いている。
太陽であれば目に毒で、監視カメラ越しとはいえ気分が悪くなると村のみんなは言っていた。

しかし、今回の人間が取り出したものの白い星の光はなんだか心地がいいらしい。

そして人間はその白い星を宙に打ち上げた。

村のみんな、その光に目を奪われていたのでそれを止めることは出来なかった。

本能的に、この村に必要な光だと感じたからだ。

それは月に似ていた。

ずっとその月をみんなで眺めていた。

しばらく経つと、その月からゴゴゴゴという音がした。

なんだろうと思って見ていると、月の表面が燃え出し、徐々に太陽となった。

「やられた!人間は付きの甘い光で油断させ、皆が集まったところで太陽に変換できる装置を開発していた!」
「もうだめだ。建物までも距離がある。走っても着くまでに身が滅びてしまう。」
「ムーン、もうお前しかいない!後のことは頼んだぞ!」

様々なことを皆が叫びながら、人工太陽の光に焼かれて死んだ。

そして、僕は生きていた。

なんで僕は生きているのだろう。

先ほどの人間が姿を現した。

「ムーン!よかった。無事だったか。」
「お前は誰だ?」
「ムーンの父親だ。お前は昔赤ん坊の頃に吸血鬼たちに連れ去られずっと行方不明だった。ようやく見つけたよ。遅くなってすまなかった。」

何が何だか分からない。

僕は本当は人間だったのか。

村のみんなが、強欲で汚らわしいと言っていたあの人間なのか。

それはそれでショックだった。

そして僕はその父親と名乗る男に人間の村へと連れて行かれた。

村の人達がこちらに集まって来て次々と質問をしてくる。

「なにか酷いことされなかったか?」
「今まで何を食べて生きて来たんだ?」
「あいつらは人間たちのことをなんで言ってた?」

酷いことはされていない。血を飲んで育って来た。人間たちのことは強欲で汚らわしいと言っていたことを伝えた。

「なんで酷いことを。血を飲まされていたのか。」
「ここでは大丈夫。もっと美味しいものが食べられるよ。」
「そう、例えば、吸血鬼の肉とか。」

人間は恐ろしい。

僕は家族同然で一緒に僕を育ててくれた吸血鬼たちを殺めた上で、その肉を食べないかと勧めてくる。

人間には心がないのだろうか。

どちらが鬼なのか。

それとも吸血鬼に対する強烈な敵対心がこのような発言を産んでいるのだろうか。

例え今日僕を救ってくれた人間の父親と血が繋がっていようとも、小さい頃から一緒に過ごして来た、僕を育てて来てくれた村の人達の方がよっぽど僕にとっては家族である。

救う、というより人間村という地獄に無理矢理連れてこられたようなものだ。

そしてこの人間村ではどうやら、僕の村を絶滅させた“月太陽”を作っている拠点らしかった。

まだまだ吸血鬼の村は点在している。

その吸血鬼村を全て潰すという計画も聞かされた。

そして僕はやることがはっきりした。

或る夜。村の人間達が眠ったことを確認して、

今まで製造されて来た月太陽やそれを造る機械に火をつけた。

そして人間達は「火事だ!」と騒ぎ立て、火を消すために水を使おうとした。

しかし水道にも細工をしていたため、人間達に水は使えない。

村は燃え尽きた。

僕は火をつけてすぐにその村を出発していた。

もしかしたら人間が正しいのかもしれない。人間に育てられたら人間を家族だと思っていたのだと思う。

しかし僕を育ててくれたのは紛れもなく、吸血鬼達で、少なくとも人間よりは心に温かみが感じられた。

だから僕は別の吸血鬼の村へ向かう。村が点在している状態だと全ての吸血鬼を守ることが出来ない。

-5年後-

僕はいつの間にか国王になっていた。今ではみんな安心して暮らしている。

あの一件があって以来、全ての吸血鬼の村へ行き、吸血鬼だけの独立国を作ろうと言って回った。

ほとんどの吸血鬼が人間を恐れていた。

だから皆すぐに独立国を作ることに賛成してくれ、僕について来た。

別に僕は人間に復讐したいわけではない。

敵対したところで何も生まれず、大切な何かを互いに失うだけだ。

ただ吸血鬼達が安心して生活してくれたらそれでいい。

僕は人間とは違って、強欲ではないのだから。

この記事が参加している募集

スキしてみて

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?