見出し画像

そうやって、また

傷つきたくないから、傷つく前に、先回りして、顔色をうかがって、次に飛び出す言葉を予想して、その言葉に対する答えを頭の中に浮かべて、言い方をシミュレーションしてみても、たまに、あ、うそ、変化球きた、それは想像してなかったぞってこともあって、だから瞬時にまた別パターンの答えを思い浮かべて、しゃべって、ちょっといつもと声が違って、でも、なんとかその場をやり遂げて、そしたらさっきの空気がまだここまで続いていて、ああよかった、私は間違ってなかったんだ、なんて思いながら、でも今度は自分の顔が気になっちゃって、どんな顔して話してたのかな、いつも平常心を装っているのがバレたりしてないかなって怖くなって、急な沈黙が訪れると間を埋める方法がわからないから、全身の血液が逆流したような感じになって、体温が一気に30度くらいまで下がっていく、そんな感覚に陥るんだけど、君といる時は全然違って、なんていうか、君のその何にも考えていない、明日だって一年後だって、別に生きてさえいればいいみたいな、よく小学生の時に食卓に並んだ味噌汁に入っていた大きなお麩のような、どこかがかなり抜けているけど、優しさがたくさん詰まってて、ぎゅってしたらその優しさが滲み出てくるような、そんな感じの話し方で「お腹空いたね」なんて言われたら、私は私でいられるし、やっぱり君の目の前では私は私を見せられるし、どんな言葉でしゃべろうとか、どんな顔していたかなとか、そういうことを一切考えなくても大丈夫だって、口には出さないけどそういう優しさで包み込んでくれる君の隣なら、私はずっと笑っていられそうだよ。そうやってまた、私は私を取り戻していくんだ。

この記事が参加している募集

#スキしてみて

527,736件

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?