見出し画像

地域共通クーポンと仏陀とトルストイ

見事に、金に踊らされました。

先日、東京に出張に行った際、Go toトラベルで新幹線と宿を抑えました。交通費が抑えられただけでもありがたかったのに、それに加えて、5000円のクーポン券もゲット。

わー、ありがたいぞ!

コンビニで使って、朝食を浮かせられるし、それでもまだ4000円くらい使える。急遽決まった出張の前日に、東京駅周辺でクーポンが使える店舗を3時間くらいかけてチェック。使い勝手のいい紙クーポンが宿でもらえると勝手に勘違いしていました。いざホテルでチェックインしたら、お客様のご予約は電子クーポンでの発行となります、と。えええ。それなら、昨晩、あんなに検索に時間かけなかったのに!電子クーポンの設定を済ませて、次の打ち合わせ先に。

あれやこれやと打ち合わせをした後、宿近くのコンビニにへ。こっちには電子クーポンがあるんだぞ!普段だったら買わない歯ブラシや乳酸菌入り野菜ジュースを抱えて、レジに並びました。ちょっとテンション高め。で、店員さんが商品をスキャンし始めてから、電子クーポンが使えないことが判明し、本来いらないものを買うはめになりました。宿に帰り、今度こそ徹底リサーチです。1時間くらいかけて、電子クーポンが使える店を調査。よし、明日こそは有意義に使い切るぞ。

明けて、出張2日目。10時前にチェックアウトし、まだ一度も利用していない電子クーポンを忍ばせながら、一路、東京駅へ。目指すは、駅周辺のお土産コーナー。

まずは駅北側の物販コーナを徘徊。買いたいものがない。

次は、駅中だ。70円の入場切符を使って、駅中のお土産やさんなどを物色。買いたいものがない。。

結局、次のアポ前の2時間、ひたすら、東京駅北側エリアを歩き回り、買いたいものがなかったので、駅外の高級チョコレート屋さんで、電子クーポンを使い切りました。切手サイズのチョコレート板が6枚で1000円くらいする、ベルギーブランドの普段だったら絶対手を出さない高級チョコレート。出張から帰ってから、食べましたけど、スーパーで売られているチョコで自分は十分、と思うような味でしたよ。チョコは明治にかぎる。

お金は人生を狂わせる

という真理を噛み締めさせてもらった貴重な経験でした。たぶん、人生初。

たかが5000円。されど5000円。

5000円の電子クーポンがなければ、前日はたまっていた本を読み、出張先のコンビニで必要最小限のものだけ買い、ゆったりとした心持ちでその夜を明かしたでしょう。チェックアウトした後も、東京駅に縛られることなく、他のエリアを散策したはずです。

5000円の電子クーポン、という降って湧いたお金に踊らされたのです。急に手元にまとまったお金が入ったことで、自分の行動が変わったのです。後で振り返ると、「なにしてんの。自分」と呆れるような行動を。そういえば、同じような話が仏教説話にありました。

毒蛇

 釈尊が阿難尊者を連れて歩いておられたが
「阿難よ、見よ毒蛇がいるぞ、噛みつかれない間に早くいこう」
「まことに恐ろしいものでございます、急いで参りましょう」
 その会話を聞いた百姓が、恐いもの見たさに覗いてみると、なんと素晴らしい金銀財宝が地中からはみ出ているではないか。
「あゝ驚いた、昔の誰かゞ地中に埋めて隠しておいた物だろう。大雨で押し流されて、はみ出たに違いない。釈迦は、も少しは偉いと思ったが、こんな宝を毒蛇とは間抜けた野郎だ。俺は毒蛇に噛まれてもよいから、持って皈ろう」。
 生活の程度は一躍向上して、村中の評判となった。このことが王様の耳に入った。呼び出されて、調べを受けて事の次第を申し述べると、
「拾った物を届けずに、なぜ勝手な振る舞いをするか。死刑に処するが、三日間の猶予をしてやるから、一応皈れ」
 妻子は待っている。青ざめて物も言えない、家内中沈みきっている。あゝお釈迦さまは偉い、毒蛇だ毒蛇だ。俺が噛み殺されるだけではない、可愛い妻や子供までが噛みつかれて毒がまわり、財産は没収されて、子供は路頭に迷わねばならないとは、なんと恐ろしいことであろう。
 財産も何にもいらない、家内中そろうて平和に暮らされるのが何よりだ。財宝が、却って身を攻める道具となった、これが毒蛇とは知らなかった。
 次の日、呼び出された。死刑が早くなったのでないかと、息づまる思いで法廷に出た。
「汝の罪は赦してやる」
 夢かとばかり驚いて
「広大無辺なご仁政、私をお赦しくださいました理由を、お知らせくださいませ」
「汝が皈る前に、床下に家来を忍ばせて聞かしたのだ。すると壺を拾った前後の模様から釈尊のお言葉、お前の懺悔。よく聞いてみると、汝ばかりが毒蛇に噛まるゝのではなかった。汝から取り上げた財宝は、思いがけない収入だから飲み食いに使用するに違いない。家来どもは喜んで役得として国民の裏を探して、没収しては酒色に耽るに違いない。善政は敷けないで綱紀は綮乱し、思想は動揺し、内患外憂、そのうちに外国より蹂躙されて、国は破滅するに違いない。毒蛇の毒が朕にもまわりかけたことに気がついたから、死刑を赦してやるのだ。その財宝は無駄に使用してはならないぞ、必ず釈尊に捧げて善いところに使ってもらえ」。
 喜び勇んで皈った主人を迎えた妻も大喜び、さっそく二人そろって釈尊の前に、残った財宝を捧げて一部始終を申し上げた。
 釈尊は微笑みつゝ「この世の宝は、身を苦しめる攻め道具となることが多い。さっそく道場を作り、道をよくし、橋を架け、井戸を掘り、便所を設けて、公衆のためになるところに使用しよう」と仰せられた。
 世の人々よ、反省しないか、税務署を誤魔化して、温泉に行ってドンチャン騒ぎをしていないか。知事や大臣まで出世したものが、獄舎に繋がれて家族まで毒にあてられて悩んではいないか。
(大沼法龍著作『教訓』(敬行寺、1972年))

5000円の地域共通クーポンが毒蛇だったとは、、
この毒蛇の話には続きにあたる話があります。トルストイ作「ふたりの兄弟」。

ふたりの兄弟

ある兄弟が、困っている人たちを助けながら、自分たちも慎ましく暮らしていた。兄弟は月曜日から土曜日まで、お互い別の場所に出かけては人を助けていた。日曜日だけはお休みだった。ある日、それぞれ別の場所に向かって行くとき、兄は振り返って弟の姿を見送ろうとした。すると、弟が飛び上がって何かに驚き、逃げるように消えていくのが見えた。
兄は何があったのか、とその場所に行ってみると金貨が山になっていた。兄は、その金貨があればいつもよりたくさんの人を助けられると思い、拾い集め、街へ向かった。
街には困っている人がたくさんいて、兄は病院をつくり、浮浪者のための施設をつくり、孤児院も作った。それぞれの施設に高齢者を雇って働かせた。
その週もたくさん人を助けたので、日曜日にはいつものように家に帰った。
すると家のそばに来ると天使が現れ言った。
「お前はなんてことをしたんだ。もう弟と共に暮らす資格はない。」
兄は理解してもらえると思って金貨をどうやって使ったかを説明した。
天使は答えた。
「金貨は、悪魔がおまえを誘惑するために置いた。お金を使ってお前がしたことより、金貨から逃げた弟の行動の方が尊い」
兄はそう言われて、良心が目覚めた。金貨など使わずに自分で働いたときにはじめて、人に尽くすことができると悟った。こうして、兄弟はもと通りの生活をするようになった。

そんなこんなで、お金に踊らされまい!と心に誓っていた時に、ノイタミナ枠「C」を観ました。切実な経済格差と、人が金に踊らされる様を描いていて、ゾッとしました。で、この衝撃をわすれないうちに、と今こうして文章にしています。まだ2話途中までしか観ていませんけど、つつましやかにいきたい、と念じまくってます。


最近、金銭感覚が変わった人がいたら、ぜひ、ご覧を。

お金は脂っこくて、ものすごくお腹を下しています。

ご、ごちそうさまです。

まさかお金が振り込まれることはあるまい、と高を括っているので、サポートされたら、とりあえず「ふぁ!」って叫びます。