見出し画像

うつわのおはなし ~高取焼と小石原焼~



うつわ好きの私は、先月下旬から今月はじめにかけて、「九州やきものの里めぐり」を楽しんできました。


画像1


私は毎年 佐賀県の有田町を訪れるほど、有田焼に魅了されているのですけれど、惹かれるのは有田だけではありません。
栃木県の益子に何度も足を運んだ時期もありましたし、備前に憧れて 焼き締めをつくれる陶芸教室に通ったこともありました。
民藝品と呼ばれるような あたたかな陶器にも、有田以外の繊細な磁器にも、うっとりするのです。

そんな私の今回の旅は、スペシャルバージョン。
訪ねたのは、次の5つの里です。有田以外は初めての訪問でした。  

■福岡県 高取焼
■福岡県 小石原焼
■大分県 小鹿田おんた
■佐賀県 有田焼
■長崎県 三川内みかわち


お天気は、雲間からチラッと太陽が覗くような日もありましたけれど、雨女の私にとってはハナマルです。
ぽかぽかした小春日和の九州を、夢見心地で満喫した旅でした。


画像2


今日は、訪れた5つのうち、高取焼と小石原焼について綴りたいと思います。
どちらもあたたかく、趣のある陶器です。


―はじめに―
このnoteは、うつわ好き素人の、気ままなエッセイのようなつもりで綴っています。
内容は、学問的なことには及びませんが、本人は 楽しく綴っているものです。
お時間とご興味がございましたら、どうぞお付き合いください。

※この旅行のタイミングについては、最後に少し触れたいと思います。


***

日本のやきもの

日本のやきものは、縄文土器から始まり、長い長い歴史を有しているわけですが、中世までは、やきものと言えば「壺、かめ、鉢」を指していました。
この3つは、やきものの “三種の神器” と呼ばれるくらい、人々の生活に密接にかかわる道具だったのです。(ここではザックリ書いています。どう密接だったのかは、また別の機会に。)

壺、甕、鉢は、生活具として全国で焼かれ、その窯場はそれぞれに発展したり、あるいは様々な理由で無くなったりしながら、日本のやきものの歴史を築いてきました。


画像2


日本のやきものが、「壺、甕、鉢」から「食器としてのうつわ」に大きく転換したのは桃山時代。
千利休が昇華させた茶の湯の影響です。
織田信長が その茶の湯を政治利用したことから、大名たちは価値ある茶陶をつくるため、競うように朝鮮から優れた技術をもつ陶工たちを招聘し、朝鮮半島の作陶技術を取り入れるようになりました。豊臣秀吉の朝鮮出兵により、多くの朝鮮人陶工が日本各地の藩窯に招かれたことで、その技術が伝播して、日本のやきものの文化は大きく変わったのです。
私が愛する有田焼も、肥前国佐賀藩 初代藩主 鍋島直茂が連れ帰った「李 参平」という優秀な陶工により誕生したものです。
今日おはなしする高取焼と小石原焼も、この頃に誕生しました。


***

高取焼

現在の福岡では、17世紀初頭に、筑前国福岡藩 初代藩主の黒田長政が、「八山」を中心とした陶工集団を朝鮮出兵から連れ帰りました。

高取焼は、その八山らに、永満寺宅間(現在の福岡県直方のおがた)の地で窯を築かせたのが始まりと言われています。
その後 高取焼は、茶道具を焼く御用窯として、江戸初期の大名茶人・小堀遠州好みの洗練された茶陶を作成し、場所をいくつか移動した後、小石原の地に移りました。

画像3


私は先ほど、今回 “5つの里” を訪ねたと書きましたが、高取焼と小石原焼は同じエリアに存在していますので、“4か所の里“ を訪ねたと言う方が正しいかもしれません。

*


ここまでの写真は、タイトルも含め、すべて高取焼「八仙窯」さんの風景です。


画像4


私の写真は驚くほどピンボケだったりしますが… とても風情があって、すてきな窯元でした。


画像6


画像7


現在の高取焼は、このように茶道具だけでなく、日用品も焼かれています。

陶器の表面を覆う「釉薬ゆうやく」には、“黄釉“ や “黒釉“ など、自然物を原料とする様々な種類のものが使われているのが、高取焼の特徴です。
私はその豊かな表情を気軽に楽みたいと思い、釉薬の異なる箸置きを5つ選び、頂いて帰りました。
形成も微妙に異なる梅の花が、手づくりのあたたかさを醸し出していて、可愛らしいこと。


画像8


ところで窯の展示場を見てみると、茶道具は作品の中でもやはり特別なようで、日用品とは分けて、畳を上がった奥に展示されていました。

受け継がれる伝統への誇りを感じます。


画像8


そして どれも、心が鎮まるようなやきものでした。


画像9


画像10



***


小石原焼

画像11


小石原焼は、福岡県朝倉郡 東峰村で焼かれるやきものです。

17世紀の半ばに、先述のとおり茶陶の窯・高取焼が、小石原の地に開かれました。その後、筑前国福岡藩 第3代藩主 黒田光之が 伊万里の陶工を招き、日用品の窯が開かれたのが、現在の小石原焼の元になっています。


画像12


小石原では当初、壺、甕、鉢、そして徳利などの生活具が主に焼かれていましたが、近代になって民藝運動で注目され、食器類などもつくられるようになりました。

陶磁器では初めて伝統的工芸品に認定されており、現在も約50軒の窯元が活動しています。
その中で、2017 年には、「ちがいわ窯」の福島善三さんが、重要無形文化財「小石原焼」技術保持者(人間国宝)に認定されています。


画像13



小石原焼は、「流し掛け」や「打ち掛け」という釉がけなどの他、「飛び鉋とびがんな」や「刷毛目はけめ」と呼ばれる技法を使って模様を描くのが特徴です。
この技法は、轆轤ろくろを回転させながら、刃先や刷毛などを使って規則的に描くものです。


*


小石原焼は、おもに山の麓の国道沿いに、広い範囲で窯元が並んでいます。

画像15


現地を目指し、色づく木々の山道を車で走っていると、麓にさしかかったあたりで突然、ぽつん。また ぽつんと窯元が出現し、気持ちが一気に昂りました。
もう少し車を走らせると、素敵な佇まいの窯元が次々と立ち並び、間違いなく歴史ある大きな窯業地だということを実感します。


画像15


写真は、最初の「小石原焼展示場」以外全て、「マルダイ窯」さんで撮らせて頂いたもの。


画像16


壺のような形に焼かれた植木鉢には、元気色のお花がお似合いでした。


画像17


ぽってりと厚みがあって 両手であたたかく包み持ちたくなるような、素朴で味わいのあるうつわです。


画像18




***



ほんのちょっぴり、小鹿田焼について

今回訪れた里のひとつ、大分県の小鹿田おんた焼は、江戸時代中期に小石原焼の陶工を招いて開かれた窯場です。

開窯かいようの順にまとめると、

(朝鮮人陶工 →)高取焼 → 小石原焼 → 小鹿田焼

という流れになります。

先述の小石原と小鹿田は、よく「きょうだい」と比喩され、技術など共通するものがあるのですけれど、「飛び鉋」や「刷毛目」の模様はその代表的なものと言ってよいでしょう。
小石原ではその模様の写真を撮りそびれてしまったのですが、小鹿田で撮ることができましたので、ここに添えたいと思います。


 飛び鉋とびがんな
刃先などをあてて描きます。

画像19


▽ 刷毛目はけめ
刷毛をあてて描きます。

画像20

(お値段の公開を控えるため、真ん中あたりを四角く加工しています。)


小鹿田は、今回、私がとくに訪問を熱望していた やきものの里です。

実は、小鹿田焼を知りたいがために、そのルーツである高取焼と小石原焼の里をこの目で観てみたいと思ったのです。


その小鹿田については、機会を改めて、ゆっくりと綴りたいと思っています。


画像22



***


今回の旅行は、昨年の有田旅行(Go Toキャンペーン利用)から帰ってすぐ、つまり約1年前から計画し、現地の方々にアポイントを頂くなどして、実現を祈りながら準備を進めてきたものです。
その間ずっと、感染状況に一喜一憂してきたことは、後々思い出のひとつとなることでしょう。

また先月は、仕事が想定外に忙しくなり、こちらもどうなることかと思いましたが、ちょうどひとつの大きな山を越えた翌日が 出発日になるという奇跡のタイミング。
感慨ひとしおでした。


そして今回は、とにかくたくさんのものを この目で観ること・心に刻むことに夢中でした。
“撮ること“ については、いつも以上に おろそかになっていたかもしれません。(というのが、ピンボケの言い訳ですが...。)
それでも、眼の調子もイマイチな中、“カメラ撮影” の意地を通したところは、自分をほめてあげたいと思います。(あまい!)


うつわのことになると、いつも長くなってしまいます。
来年は、マスク無しで うつわ旅ができますように。と祈りつつ、今日は ここでおしまいにしたいと思います。



*
*
*



― 最後までお読みくださいました方へ―


お礼に、美味しい秋刀魚ごはんをどうぞ。。

画像23


何日目かに 佐賀県武雄市の「あん梅」さんで頂いた、とびきりの夕食コースの〆です。
秋の味覚も、そろそろ終わりですね...。



ーーーーーーーーーーー



この記事は、2021年11月14日に投稿したものです。
その後、さらに うつわの歴史を確認する中で、他説もあるということを確認した箇所があり、6日後の11月20日にその部分の表現を修正しています。小鹿田の中の一文です。
”きままなエッセイ” とは言え…今後投稿する際には、さらに注意してまいりたいと思います。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?