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リビングデッドは生者を求める

足を滑らせ転がり落ちる、止める手立てもなく転がり続け、最後は深い穴へと落ちていく。

落ちていくなかで見えるのはいつかの記憶。
私が活きてきた物語。
それらは様々な色で彩られ、最後のページは眩しく輝いていた。

どれだけの間落ちていたのだろう、気づけばテレビだけが残された部屋の中。
もう戻れないとでも言いたげに、落ちたはずの穴はもう見えない。
テレビの電源が勝手に入り、流れてきたのは周りの人々の生活、私以外の人間が活きている映像。

もうあそこには戻れないという絶望感と孤独感が私を隅から蝕んでいく。
けれども私は抗わない。
なぜなら私はもう死んだのだ、ここから出ることは叶わない。いや、叶えない。
なぜならここは少し暖かい。
暗闇の外は怖いのだ、辛い思いをするのはもう嫌だ。
ここならそんな心配はない。
罪悪感という小さな痛みと活きることを代償に私は安寧が得られるのだから。
そう言い聞かせて私は部屋の中で蹲る。


どれだけ時間が経ったのだろう。
いつの間にか心は冷えて、身体も徐々に朽ちていき人間ではなくなった。
私はリビングデッドへと成り果てた。

「君にはもう生きてる価値すらないのだ。」と
「醜く薄汚いリビングデッドは邪魔なのだ」と

名も知らない誰かの声が聞こえてくる。

「早く消えろ」と急かされる。
テレビはあいも変わらず、活きる人々の映像を垂れ流す。

リビングデッドになった私は生者に対して憤る、リビングデッドななった私は己に対して憤る。

リビングデッドは生者になろうと手を伸ばす。
伸ばした先にあったのは扉の取っ手。
開けた先は生者とリビングデッドが入り混じる世界。

穴へ落ちていく生者達。
リビングデッドから生者になった者達。
生者を襲うリビングデッド達。
そして、声に呑まれ消えていくリビングデッド達。

生者の反応は様々で、同胞を批判する者、寄り添う者。
リビングデッドの私にはどんな反応に対しても、生者特有の光が伴い傷がつく。

この先どうなるかはわからない。
光に耐えられなくなり私も生者を襲うかもしれない。
生者になる前に朽ちるかもしれない。
けれど、どうか生者になれるようにと、祈りながらリビングデッドの私は進む。



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