犬の生活（INNER MOTHER）　　川柳101句

母語をもて註釈されるははのくに

老ゆるとき芹澤鴨のさかまつげ

純粋の月にむかってとぶ海豚

人なりき五十年間犬をみず

現在の架空の国のねぎばたけ

焦土にて珍商品のあしもげる

仏性に裸の昼餉おおわれて

子と父に父と子にふる春の雪

鳥葬のねがいとしての鸚鵡飼う

だいふくの喉とおり過ぎわれは鳥

僕っ娘がきたない主語を放つ池

どこへでもゆける切手と麩を貼って

境内が晴れてセックス・ピストルズ

化石する街にくっきり三丁目

怪獣を喃語で言って世の終わり

朝もやにキリマンジャロと姉がある

手妻して火星兵団消え残る

神童と神童であう薬子展

少年がデザインをする団子坂

ほとを突くそれから銀河漂流記

石灰をマクドナルドの地下に埋め

人麻呂のカップケーキに擬人法

手鎖の呪文となえる赤い月

絶対の零度の墓にはかまいる

ハメ技がつづくあいだの八代亜紀

ブラジルとおもったままの犬を飼う

神智学時東ぁみの時を停め

劉邦をカミオカンデになやませる

自爆して脳にふたたびごまだんご

星の書にヤコペッティの伝記入れ

美しい星に老人偽名書く

猿山の大部を占める変電所

とんかちを皇帝に打つ三島賞

寝たばこを衛星廻るみゆき族

カツ揚げるくれない族の徽章つけ

脳の日に荒川静香書きにゆく

さるまわし東京特許許可局下

猿の名と皇紀をかぞえ傘を折る

肥満美女銅貨に彫られ神の國

母語なくし神風連のパズル解く

水兵のほうれんそうに神宿る

味塩の神殿くずす神憑り

朝潮がコールタールと呼ぶ秘境

がんもどき桶と秘仏を引きかえる

夜歪む火焔太鼓を聴いてから

らっきょうをトートロジーで語るひと

マコンドのことわざにある東風の犬

犬と犬言語感触にてめざめ

干渉の茄子にかんする球グラフ

薄弱の飴にまつわる村歌舞伎

スクリーンショットのおおい天皇家

童貞が札幌駅の液ひろう

童神がユープケッチャをうらがえす

鳥山が遺したガムの批評会

曇る街遠近法に酢をなくす

俎にメメント・モリの出目金魚

荷風らのパーソナリティー梅が咲く

江戸城の柵をつくりにきた春樹

ユニットに蛾の生涯を組みいれる

あらしの夜間寛平濡れて立つ

雷帝によくわからない灸据える

死はひとつ独立国のてまえどり

混浴に骨法マニアからはいる

人類にブラウン管という四月

落書きにアルファを足して四月の死

わたあめを無数にもらい死んでゆく

ゆで卵から卵成る秘宝館

ボガートのくせに赤ちゃん取り違え

死の国に麒麟きりんとして立てり

王朝の全員外すゴムタイヤ

夕張の火盗改メ夕ぐれる

単純の動線を引くＶＯＷの家

梅子らがジャケ買いをする左翼の誌

豆腐屋が現場集合するドイツ

天落ちて夜の翼の味噌まみれ

赤狩りと同時開催するいか屋

美意識のコーンフレークひとつわる

無に還る鰐のかたちをしていると

三河屋に華族がいないコーラ振る

ドナルドの数かぎりなく言語論

翻訳がはじまるまでのゼロ次元

正平のあやとりつづく阿含宗

あほうどり今まっしろい霊柩車

キマイラの声きくときに春深し

部外者が「ぷ」とあらわしたスケーター

タワマンの影をのがれる膝栗毛

サイボーグ畑正憲へ春の雷

神として眼鏡屋をみる馬鹿の年

腺液がタバコ・ロードにこぼされる

春の闇アミン大統領と寝る

耕󠄁筰のミステリ・オペラにて死なん

書を読んで重力会のなかまたち

凍死者を学園祭に名づけあう

鳩が降る県立大をやめる日に

とうとつに象の膵臓くり抜いて

ソシュールが言葉の通り陽焼けして

グラムシをかたる架空の吾子に肌

大脳と肌つめたかり架空吾子

曇天にギンギラギンのひとばしら

一橋大学生のおもうミグ

蟻走感　老婆はははになり給う

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