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第三の男  詩5篇

  スプリング・コートを出す

おまえのその身に春がつつまれる
おまえのなかの春は
貨幣制度が発達していなかったころの
メロンジュースを飲む手法だ
それは
それ という代名詞を使いたくないが
それ としか言い表せない〈それ〉だ
だから春をわだかまらせるがいい
だから春のなやみに襟を合わせるがいい
春の雪
山脈は白くつつまれ
桜の花びらに雪がこびりついていた
おまえだけの春

   2022.4.1


  題名のない舞台

奇術師

予告

とまで書いて
あとを残さずに(偽の)奇術師は消えた
残りなく
永遠に
予告のまま
        偽のまま

   2022.4.?-4.17


  アイアン・マン

ザリガニをいちども視た
 ことが
無い
 ことを
ことさらになげくことはなくて
ザリガニという
 ものを
視てしまった
あるいは視つづけているあなたという
 ものを
ただ くるおしくなればよい
河べりをみつめている鋼鉄の騎士——
 ——ことが流れるものの河べり

   2022.4.17


  拳銃無宿

僕たちが
共有していた
モデルガン
  本物よりすこしだけ小さく
  本物より
      すこしだけ
 やわらかいプラスチックの弾を放つ
から
頭をぶち抜いて
しまっていった たくさんの
 川上君川上君川上君川上君足塚君
  が
すべて消えてしまった
みんなどこかへ消えてしまった
から
     僕たちが
      とは
    共有していた
      とは
いったい何なのかわからなくなって
いま僕の
ひきだしにモデルガンは独占されている

   2022.4.25


  ソー・ホワット?

言葉で書いた
ものは
言葉によって消される

言葉によって書かれなかった
ものも
信じられないくらい簡単に消されたまんまだ

今日、道を歩いた。靴がつまくて痛くて、僕は何かを恨んだ。何かがはずかしめられるところを。チューリップがたわんでいて。何かが引き裂かれるところを。消防団の集会所に灯油の匂い。何かをどんなふうにしてやりたいのかを。工場の前庭のマネキン人形モンペ履き。何かが。何かを。それなのに、何かは何かのままで。
僕は何かを決してとき明かそうとしないのだった。

だから
言葉によって書かれた 書かれなかった
ものを
何か
という言葉で
僕はどこにもたどり着けないでいる

   2022.4.25 

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#詩 #文芸 #創作 #四月の詩

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