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東京八〇景  川柳80句

2022年11月3日、東京に赴く。同11月4日、伊那に帰る。尚、章題はすべて往復の折、車内で聴いていた表現者=パフォーマー名である。


     *  *  *


1.フィア・ファクトリー


伯耆屋の言語をつかうあけび掘り

老いてゆく海老定食があるがゆえ

裏面史にボンタン号と書いてある

世界との真白い距離を考える

飴として後部座席に亀を置く

箱だらけダウンタウンを熱写する

ラグビーをいまするひとの新宿区

産婆らの情報網に高い城

垂直のクラリネットを数えやめ

選ばれた備長炭がある世界

論理上時間の上に下に鯔

地下駅と黄帝液があり過ぎる

人間の土地人間の舌ふるえ

救済歌かたやきそばを愛す児へ

チルチルにげそ天そばを遣るミチル

夜行するランダムハウス弁護団

暖気する森川葵たちの書画

触角を病みイエメンを見うしなう

妻といる地球にもっとハロゲン紙

人がみな江ノ島に見え冬来る

時間へと時間かさねるハムサラダ

コンビーフあらん限りの夜尿症

新宿がスポンジ・ボブの救急車

ユニクロを見つけなかった北斗星

空という普川素床が飛ぶところ

朝のもや変身譚が終わるころ


2.アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ


大王に正方形をまた贈る

mixiに闇の大塚製薬社

性器持つ北極星をまず消して

あざらしのホースに後鳥羽帝じるし

愚者つどい一筆で書くカーペット

名があったカナダ以外の甘辛煮

熱に病む関東圏のコーヒー屋

方舟のうどんと猫がおろしかけ

ちょきを出す度のマックス・エルンスト

詩人の死ペッパー警部ひとりの死

すきま風三千本の宇宙へと

ペリカンが居ないから出る宮内庁

菓子を錬るきざみわかめの記憶下に

雨の日の人格ならぶ古本屋

とび箱が神保町にある鑑

豹柄の鏡に豹のうつらざる

海軍が二度もよじっていた仏

仏教にもとづくチキンバーガー屋

石がある非劇劇場前の駅

タンバリンごときに熱き電産機

カーネギー・ホールに山田五郎臭

警官が山田太一と言った街

象頭のひとドーナツをつなげたり

オイスターソースと雪のない狂句

有料のエジソン劇の幕おりる

半月へみがきにしんの転びたり

シャンプーを飯田龍太が流し込む

狂人の街の俳画に緒形拳

月影に安孫子素雄をどもりつつ

街なみの描写にながいリコーダー

うどん屋に石垣さんの手と手と手

星間の吾妻ひでおが菓子を喰う

ピンチョンの超訳者らとすれ違う

白人に晒す青学前店舗

さすらえば暴動前の食パン屋

カレー屋にアンチ巨人の会報誌

五次元のほかにうずら屋なき渋谷

ガンダムに3号機あり海葡萄

等々力を読む貝塚に貝がある

日本大エクリチュールの零度から

蟻の塔改造奉行らで壊し


3.柳家喬太郎


海に夜ノンフライ麺買う神話

駅蕎麦に脳移植した二人づれ

ベーゴマを諜報員が捨てて劇

𠮷牛に被害妄想ラジオつけ

母型論あしたプランクトンを買う

疑惑するこの世の茶漬はてるまで

シムノンがえぐったような酒器の都市

倭人伝巨大時計が狂いだす

立像の坂上二郎錆もなく

日本語のあな幾万と乗車場

さすまたにルビ振りかける午後の都市

ミュージカル場にモアイののどちんこ

ウナで描く宇宙にさらば東京都


#川柳 #詩歌 #文芸 #東京


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