ブッデンブローク家の人々（父が消えた）　　川柳77句

雪やんで時間ぎらいの父が居る

旗本の弱点かくす雪野原

トルソーが歪んでいるか歯を磨く

みぞれればひとりも居ない火星人

おりがみのジンギスカンが雪に濡れ

雪隠にかまえてはいるトイカメラ

あめゆじゅに意識の果てのＪＩＳコード

みな並ぶ宮尾すすむの仮面つけ

浮きが浮くここに地球のあるように

生涯のめかぶを容れる全聖夜

胎盤を兄が野球に持ってくる

永遠に栗鼠飼う白い壁の中

赤羽にいちどきりみる銀河系

コラージュの三葉虫がのろけ出す

さすまたをきらっていると光の日

無臭都市塔もろともに鱶くずれ

声優の潜在意識からめんま

豚まんを豚まんとして焼く雀鬼

雪のなか無敵のひとのゆりかもめ

ハンカチをたたむ現代狂句考

てり焼をてらすミクロの決死圏

法皇の輪ゴムを捨てる穴と穴

ツービートひとりとてなし春の雪

季語としてサラダ煎餅うしなえば

脱獄記みぶりてぶりで示す蟹

酢の家にハリー・ポッター黙読し

帽子買う記憶の章魚をつくりあげ

豚カツとしてあり得べきサム・ライミ

麩の都市をダゲレオタイプにて写す

三島家の韓国海苔をはこび出す

盆栽に適者生存する紀伊家

ピザを買う泣き人形を抱きかかえ

のらくろの凡戦つづく地平線

献体のあとから詰めるねりがらし

死を想えピンポンダッシュ雪のなか

わさび屋のあらゆるものと偽薬買う

腸詰を沼正三の群れに投げ

みぞれの日恋びとたちの積む煉瓦

ときたまごミミ萩原のさとるなか

密室に文章題がきりたんぽ

釈迦立てり別働隊の鍋の中

かたくなに異常句を詠む神神社みわじんじゃ

蟻ころすひとりのディスコ・ミュージック

蟻地獄ひとつ掘り出しペンタゴン

村に描く新感覚のインド猿

おおよその金比羅山にアリスの死

ヨーヨーを折口信夫からもらう

天皇の体内磁気が洩れる午後

出囃子に贖罪されてゆくパンダ

狂う日のレモンバウムをじっとみる

ロボットが壊れてすぐの愛鳥記

少年のアンテナを折る夕陽くん

たんぽぽがエクリチュールの零度燃え

破片継ぐアラン・ドロンの弥生土器

たばこ屋に赤いきつねの全句集

陰膳と陰で呼ばれる飛行石

検閲のあいだもゴジラ上陸し

東欧のコブラツイストでの対話

大作も隆法もなし糸電話

黄金の国にあつめるエビリファイ

東山動物園のよげんの書

死火山に死火山というあだ名つけ

魔術師の街より京へ坑を掘る

愛獣のダムを崩してゆく弥生

忘れ雪喜劇時代のいま終わる

相棒のフルーツサンド盗み売る

塩の塔ブルーハーツを撮ってから

現世紀妻のハーブが間引かれて

富士五湖を禁ずることの多い春

鬼子なり盆栽の棚とり壊す

神憑いてこのまぎれなきマッチ棒

飛び地からとぶものあらず邪眼鳥

宇宙的想像力の涸れた多摩

夜を秘め光の国の微生物

エマニエル坊やの雪の像かため

チョコレート工場を出る渚たち

こころからハイデッガーの砂絵描く

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