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アニーよ銃を取れ 詩5篇

  豆腐について豆腐が語りにやって来る

言葉について言葉で語るのか?

豆腐の腐った臭いを嗅いだことがあるか?

問われている
言葉を用いないTVケーブルをちぎったように
長いこと——三年くらいだろうか
海を見ていない
海の大きさを吸い込むより
濁った海の臭いを嗅ぎとれないことの方が
ひどく 悲しいと思う
潰れかけたビルの段ボールの遮蔽幕
それら全てを
言葉で表現しようと願うのだったら
たら・たら・たら・の
擬音まで含んだ海の油を
もうしばらく見ていないのだから
海の臭いはもうしみついていない
パジャマを嗅いでみて
朱鷺色のIC機器は
やはり言葉によって分節されるのだろう
豆腐は海に浮かぶのか?
腐った豆腐ならなおさら
ほんとうの言葉を言うなら
腐蝕豆腐の一丁も
海にはなしたことがないのだった
遠い海
遠い僕のしゃべり方
あなたは聴いてくれるというのか?

    2021.5.16


  動物園

架空の動物園で
尿する
だんだんと子供に溶解してゆく檻の中
それは単なる外である
何をはばかるんだ
河馬の、虎の、ナマケモノの前で 架空の生物の前で
尿する
尿管を伝わってゆく何かを
動物園にぶちまけたとき
架空が消えてしまう
月は今も空に隠されていた
色即是空

    2021.5.17


  構造について考えるための二、三個のチーズバーガー

渚にて
ジャングルジムをつくる
あなたを中心に——あなたを閉じ込める鉄パイプ
チーズバーガーを置いておいた
あなたが舌鼓を打ってくれるように
いともたやすく檻から抜け出してしまわねいように
ピクルスを噛んでいると
紫の夕陽
満潮は近い
ひた ひた ひた と
素足を飲み込んでゆく海に
あなたはまだバーガーを食べてくれているだろうか?
ここから出ないと思ってくれるだろうか?
チーズバーガーの包装紙をわたすとき
あなたは笑ってくれるだろう
アルカイック・スマイル
肉量のささいな歪み
こんなことは
どうでもいい
沈んでゆく
ジャングルジムを見つめながら
僕はひどくさびしい
あなたの声はもう聞けないのだろうか?
満潮を待つのとほぼイコールの気持ちで
僕は引き潮を待っている
鉄柱に乱反射する紫のかがやき——さよならは言わなかった

    2021.5.18


  冷蔵庫のメグ・ライアン

俺は
眠りたくない
機械が機械たるゆえん——
歯車が回っているんだ
俺の
歯車はしょっちゅう止まる
眠りのためではなく
人をたまらなく憎んでしまうため
兄妹が兄弟が親子が
血のつながった・つながらない肉親が
俺のサンドバッグに描いてある
——嘘をついた
サンドバッグを持っていない
吊り下げる鉤もない
だから
俺の弱さが
何のためにこの世にあるのか
〈ジーザス〉の偵察部隊になった気がして
冷蔵庫を開ければ
腐りかけの牛乳
俺は弱いから
眠りたくない
腐った牛乳で一夜をやり過ごせれば
こんなにも喜ばしい機械的な〈こと〉は無いだろうと思う
深夜の雑多な種類——

    2021.5.25


  発熱

雨がざあざあと降った
のを
酔っぱらって入った映画館のように覚えている——忘れている
ベランダから空隙をもった
杉林が雨に打たれて
その音を その音以外のあらゆる音

聴く
——聴かざるをえない
なのに
俺は忘れてしまった
あんなにも世界に降り落ちる水の束
幕はもういい加減に下ろしてしまったほうがいい
びっちょりとした


俺は覚えている——忘れている——打ちつけている
なあ
誰か
俺のベッドにモデルガンを置いていってくれよ
そのもの

俺は忘れない
たとえ人を殺せないプラスチック弾さえ装填されていないにしても
雨の
 ざあざあ

    2021.5.27

#詩 #文芸 #創作 #五月の詩 #あかるさ

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