渇望（あらしのよるに）　　川柳66句

靴捨てる地球も磁気におおわれて

絵本みな焼くべし黒いおおくま座

赤坂の太陽ひとつ減りにけり

春が来て漫画アクションから蛇行

蛇行することばそのもの憐れみて

足摺のサンマーメンを持ち帰る

男根を切って戦前ゆたかなり

びっこ引く木村のまえに地図会社

渓流に釣るとき天地塗りわける

蔑称に祖父母のつかうジェフ・ベック

桃尻のこの世にあらん信濃町

象と鼻永し駅弁蒐集者

無を容れたラジオドラマを愛しつつ

春に死す鉄塊という詩にふれて

拳法がきのこの山に敗れさり

袴田を人工言語にてかたる

国家のせ亀という名の巨大亀

まきびしがレンタルヴィデオショップ埋め

電波の書架空のまりや署名して

パラボラを不良少女にむける春

素粒子に素粒子まざるいかサラダ

母星へのはしご組みたて春の星

砂あびて地球のうえの芝田山

赤狩りにコメットさんの煮る水母

猿人の脳内麻薬いま溜まる

三月の聖書のなかにうごく蠅

義母にあうストーンヘンジ崩れおち

春昼の役小角にまわりこみ

乳ぶさを実在させる初蚊来て

テクストにテクストかさね検問所

ピラニアの不滅実在しない吾子

自慰終えてうわーと夜に掴まれる

キャプテンが浮く校庭のど真ん中

プリン崩されきり二流小説家

塩漬にほろびつづける今川家

やぐらから虚数時間を打ちならす

ハイカットスニーカー脱ぐ麩菓子売り

弁慶の円周率を仮に決め

人間が埋めあっている内陸部

トラックの野郎がめざす月と不死

射精するいるかのなかにかわいるか

パンの木が反小説にずっと立つ

ハブのみな死んで極東セレナーデ

ぼうふらが星間飛行中に死す

脳みずに浮きマゾヒストたちの島

新しょうが次元大介寝取られて

鉗子など風見しんごの意味で云え

ニコタマに演じていないもやし汁

ブルーザー・ブロディという時間塔

花札をならべておいた給水所

永遠に証人であれ巨人の死

溺れ谷から祖父の名をみちびきぬ

セスナ機をねじこんでいる平凡社

うそつきが渋谷天皇陵をみて

かなをふり禅ぜんの館やかたにとち狂くるう

犬の名をチャン・リン・シャンと仮定する

塁審に妻がコブラを持ってゆく

ノギス持ち豆腐世界に焼豆腐

神話的想像力に湯を張って

マヌカンの必死をもってたなごころ

DEN-TAKU に渥美清のあたい入れ

涅槃からアスパラガスの詩の無限

戯曲なす春のあらしのなまたまご

たまご割れわたくし地球までとどく

火の時代胎蔵界になまたまご

天皇のこころに海鼠召し上がる

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