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母の話-ハゲタカのぬいぐるみ-

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母との思い出の話です。 癌で闘病していた母が自宅で倒れ、旅立つまでの五ヶ月間のお話です。僕の母が生きてきた証として書き残しています。
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2024年6月の記事一覧

母の話-ハゲタカのぬいぐるみ-その⑥

母の話-ハゲタカのぬいぐるみ-その⑥

【前回-その⑤-】

 呼吸器をつけ、瞳を動かすことしかできなくなった母との面会の話です。僕はまた、子どもの頃の母との思い出を携えて病院へ向かいました。

[22]二度目のぬいぐるみ
 翌日も病院へ行き、呼吸器をつけた母の瞳をじっと見つめていました。言葉を交わさず、そっと、自分のリュックから、倒れる前の母が編んでくれた巾着を取り出しました。僕の好きなドラえもんのお腹を模した巾着で、母からもらう最後

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母の話-ハゲタカのぬいぐるみ-その⑤

母の話-ハゲタカのぬいぐるみ-その⑤

【前回-その⑤-】

面会の度に容態が悪化する母。分かっていても受け入れ難い現実から目を背くように、在りし日の母の幻影を求めて街を歩く話です。

[18]現実
 春が近づいてきた3月上旬にようやく予約が取れ、3週間ぶりに母の元へ面会に行きました。病院までの道のりは、自分が小中高と過ごした街を通るために90分かけて歩いて向かいます。毎回少しずつ道を変えて、色々な思い出を呼び起こしながら歩くようにして

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母の話-ハゲタカのぬいぐるみ-その④

母の話-ハゲタカのぬいぐるみ-その④

【前回-その③-】

 癌との闘病中に倒れ、寝たきりになり余命半年を宣告された母。面会を繰り返すうちに余命宣告から三ヶ月が経ち、小康状態が続いていたものの、少しずつ変化が訪れてきた話です。

[14]最後の15分かもしれない
 転院先の病院は面会の予約が取りにくく、面会時間も15分に制限されてしまいました。加えて年始の仕事の繁忙期、諸々の影響で、年が明け2024年になってからなかなか母に会えずにい

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母の話 -ハゲタカのぬいぐるみ-その③

母の話 -ハゲタカのぬいぐるみ-その③

【↓前回-その②-】

 二回目の母との面会では、少し会話をすることができました。癌で余命半年を告げられた母は一体何を考え、毎日過ごしているのでしょう。面会に行くたびに病状が目まぐるしく変化する母の話です。

[10]死と向き合うということ
 母とは一日一時間しか面会ができません。帰り道、面会時間以外の母を想像していました。動くことも満足にできず、声を出すこともできず、テレビのチャンネルも変えるこ

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