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呵責液
2019年6月30日 12:51
村の漁師から、網にかかって持て余していたという人魚を譲り受けた。大昔には、空を黒く覆い隠す、嵐のような飛蝗《バッタ》ぐらい人魚の数もあったそうだ。加えて、人魚を海に返すのにも正式な手順があったそうだが、今ではそれを書き記したはずの書物すら、見つかっていない。ただ、闇雲に帰してしまっても良いものか。 人間の無礼を許さない人魚が、仲間を大勢引連れて、海辺で遊んでいる子供を、海の中に引きずり込
2019年6月24日 22:04
真っ赤なポピー畑に、動く黒い点がひとつあった。その黒い点は、四つ足で歩き、長いしっぽをピンと伸ばし、二つの耳で、遠くの林にいるであろう小鳥の声を聞き逃さないようにしていた。ポピーの赤い花が、そよ風にいっせいに靡いた。真っ赤な花の、緩やかな大波の中で、黒い猫は、同じように髭を揺らした。「あぁ、気持ちが良い」黒猫は、人間には聞こえない声で、言った。「そうかい、そうかい、ここは本当に気持ちがい