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SFショートショート『目覚めた男』

    
突然、柴原誠をまばゆい光が包んだ。
その後の記憶はなく、気がついたらベッドのなかで、目覚めていた。
柴原はその後、車で買い物にでかけ、スーパーで買い物をしていたときに違和感を覚えた。
 
毎週、二度は来ているが、みたことのない従業員ばかりだ。店内も改装されているようだ。中学時代、同級生だったおなじ二十四歳の亜有美もいないようだ。休憩中だろうか?
 
亜有美は女性だけのバンドをしていた。彼女たちのコンサートがあるから、今日、招待券をあげるからといわれていたのだ。
 
柴原は、店長らしき人に声をかけた。

「今日、鈴木亜有美さんは出勤していますか?」

店長らしき人は、そんな名前の人は、元からいませんよと、迷惑げな顔で答えた。
 
柴原は動揺し、買い物もせずにスーパーをでて、しばらく車のなかでぼんやりとしていた。
 
これは、都市伝説でもいわれている、パラレルワールド、この世界とよく似た世界がいくつもあり、なにかのきっかけで別の世界に移行してしまうことがあるらしい。そうした並行世界の話とおなじだと柴原は思った。
 
柴原は先日、中学の同級会で会ったばかりの林純一に電話をかけようとスマホをとりだした。だが、林純一の電話番号だけでなく、身内の電話番号以外が消えていたのだ。
 
 柴原は家に帰り、混乱した気持ちを落ち着けようと、サブスクで昔から聴いていたグループの曲を聴こうとして驚いた。彼らは解散もせず、メンバー四人とも生きていて、つい最近、数年ぶりに新曲をだしていたようだ。
 柴原の心臓の鼓動が高まり、突然、目の前が真っ暗い霧に包まれ、柴原は気絶した。

 
時は二〇三五年。薄いブルーのなめらかな衣服を着た、研究者たちが、柴原をみつめていた。

柴原は透明なケースに入っていた。
 
頭にはいくつかの機器が取りつけられていた。細いビニール製の菅が男のおなかに入っていて、その管から栄養分や薬品などが送り込まれている。
 
白髪の研究者の富田りんたろうは研究チームのリーダーだ。「今度の試験者はバグが多いな」とつぶやいたあと、続けて話した。

「地軸が年々、移動していることが観測と研究でわかっていた。そして二〇三一年に地軸の大移動がおきて、地球に壊滅的な被害をあたえた。そのなかで生き延びていた彼は、令和時代の数少ない生き残りだ。私たち数百人は、この時を予測していて、総理にを説得し、国会議事堂の地下に広大な地下施設をつくった。一年がたち、生き残っていた人たちも回収した。数年前に起きた大災害のなかでなぜ彼らが生き残れたのか、それを究明したい。そのため、彼の以前の記憶を元にした仮想世界に置いて、失われた瞬間の記憶を知る必要があるのだ」

まだ若い、茶髪の田村和也は所長に話しかけた。

「所長。生き延びた人たちの記憶をさぐると、ひとつ共通点がありましたよね。あのとき、まぶしい光に包まれたと」
 
そのとき、透明なケースに入っていた柴原がまぶしい光に包まれたとたん、忽然と消えた。

 
柴原は見慣れた自分の部屋のベッドで目を覚ました。柴原の記憶は、地軸の移動を引き起こした異星人によってまたしても「リセット」されていた。
 
暦は二〇二四年、七月のとある日。柴原は異星人によって過去の世界に送られたのだ。そして、異星人たちによる、『ノアの箱舟・ゲーム』が再開されたのだ。

              (fin)


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