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ショートショートと短編をMIX・『13の男』①

※ 一話ずつ視点が変わる実験作です。ショートショートと短編をMIXしています。
ユーモア、ホラー、SFの風味をとりまぜた作品です。
13の男とは、劇画、ゴルゴ13をあつかましくもいじったタイトルです。
一話ずつきまぐれにUPしていきます。     

①13の男の娘、遥

父から聞いたのだけど、昨日祈祷の仕事にかかろうとしたら、あるお客が来て、呪いでやるのかと拍子抜けされて、結局祈祷をとりやめたらしい。仕事とはいえ、呪いをかけるなんて嫌だなと思う。もう少し大人になったら意見しようと思うのだけど。

父は家族以外の人には13の男と呼ばせているらしい。父の仕事部屋は、新潟市の明石通りにあるマンション。私の家は駅前なので、歩いていける距離なのだけど、いちども父の仕事をこの目でみたことはない。父は、もっと大都会に暮らしたいらしい。なにかと、俺はニューヨーク。日本なら東京あたりが似合うのだと言っているのだ。

母さんの話によると、部屋の壁には、冷徹でプロフェッショナルなスナイパーが主人公の劇画のポスターが貼られていて、仕事をするときは医師のような白衣を着て、黒いサングラスをかけているとのことだった。父も来月には四十五歳になる。ずっと妙な仕事をしているつもりなのかなと、ときおり不安に思うことがあった。

父の背は高くも低くもないがなんとなくがっちりとした体格だ。変わった父だけど、私の名前は気に入っている。広く遙かな夢を持ち続けてほしいという、父の思いを込めて名付けられたのだと母から聞いたことがある。

私は今年の四月から中学二年生になった。それにしても、父といい母といい、そして兄といい、ちょっと変態ちっくだと思う。家にいても家族共通の話題がなにもない。父は劇画や映画の話ばかりだし、母はドラマやショッピングの話題ばかり。兄はいつもぼぉーっとしていてなにを考えているのかよくわからない。家の離れに住んでいるおばあちゃんはとても優しい人だけど、おじいちゃんはなんとなく怖い。私をみるときも私の背後を覗いている感じがする。私のうしろになにか見えるのかしら。

私はたぶん、ふつうの女の子だと思う。髪は長めの茶髪。みんなと同じソックス、そして短めのスカートを嫌々ながらも履いている。だって、みんなとちがうことをしていたら嫌われていじめの対象になってしまうから。あと二年間、なんとかうまくやっていかなきゃ。そんなことを思うと、父の、劇画の主人公に憧れる気持ちがわかるような気がしてくる。

父の好きな劇画をこっそりと読んでみたら、主人公は冷酷で合理的。情に流されないで我が道を歩いている。私もそんな生き方がしたいと思う。でも無理。仲間はずれにされている同級生たちをみていると、とっても怖くって、みんなとおなじような道をいくしかないと思ってしまう。私の頬はふっくらとしていて、悩みなんてないような顔をしている。親もいろいろ苦労をしているみたいだし、なんとなく辛い思いを伝えることもできない。

そんなある日、私の鬱々としたようすをみた父が陽気になれる呪術をかけてやるよ、なんて話しかけてきた。

「そんなことしなくたって大丈夫、元気だよ」

「ほんとうに元気のあるやつは、元気だよ、だなんて言わないものだよ」

父って、ほんとうに人の心が読めるのかもしれない、そんな気がした。でも、人の思いを読むってどんな感じなのだろう。本でも読むような感じかな、それとも声でも聞こえてくるのかな。

父はいつも持ち歩いているカバンから紙を取り出して、ペンで模様みたいなものをサラサラと書き、私の額に貼り付けた。そして空に向かってなにか大声で叫んだ。それから自分の鼻に指を突っ込んでおどけた踊りをはじめた。みているうちになんだかおかしくなって、思わず吹き出してしまった。

「ほらね、呪術が効いただろ」

父の顔がやたらと優しい。声も温かいソフトクリームみたいだった。

「それって呪術とはちがうよ」

「いいんだよ。どんな方法だって遥ちゃんが元気になってくれたらそれでいいんだ」

父はいつも私だけには優しい。だからよけいに父に心配をかけたくない。父のためにも元気にならなきゃと思う。

「ところでこの模様、どんな意味があるの?」

「ああ、これかい。これはね、遥ちゃんが一生結婚せずに、俺と暮らすことになる呪文が書かれているんだ」
 
やっぱりだめだ。いつかはこの家をでていこう。結局父も自分の幸せだけを思っているにちがいないわ。私の未来のことなんてこれっぽっちも考えてくれてないのだわ。そう思ったらなんとなく力が湧いてきた。明日からは自分の思いを伝え、自分なりの生き方を考えてみよう。

「そう、それでいいんだよ」

と、父が言った。またしても私の思いを察している。そうか、私を元気づけるためにあんなことを言ったのだ。父はやっぱり私にはいつも優しい。きっと私が結婚することになったら泣き出してしまうんだろうな。

「私の結婚相手ってどんな人なのかなぁ? 父さん、みてくれる?」

「遥ちゃんのお婿さんか、でもな、未来のことなんか知るもんじゃないよ」

父は天井に顔を向けて目をかたくつぶった。父は未来の出来事を覗くことができるらしいと、母から聞いたことがある。明日のことがわかっても、変えられない出来事なら知らないほうがよいのかもしれない。私はそれ以上なにも訊くことができずに、ただうつむくだけだった。

           (②にContinue)

『小沼洋太の作品・ランボオ的コント』


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