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ショートショート『運命の選択』

私は悩みがあると、占い師の先生によく相談をもちかけていた。その先生は年の頃なら六十歳くらいで白髪がめだつけれども、顔のツヤもよくて年齢よりも若くみえる人だった。
 
私はもともと占いが好きで、たまたま通りかかった街角で占いをやっていたのをみつけ、軽い気持ちで占ってもらったのだ。誰かから聞いて話しているのかと思うほどに私のすべてを言い当てたのだ。それ以来、私は先生を心から信頼するようになり、ひんぱんに占ってもらうようになった。 
 
そんなある夜のことだった。

「会社をリストラされてしまいました。ああ、本当に私は運がない」 
 
私はいつものように、先生のまえに立ち、水晶で占ってもらい、愚痴をこぼした。

「おまえさんはなんでもかんでも私に頼ってくるがそれは間違っておる。運命は自分で決めるものじゃ」 
 
そう言って、先生は情けない野良犬をみるような目で私をみるのだ。

「だって先生。未来がみえる先生の言うとおりにしていればまちがいないでしょう?」

「いや、運命は日々変化するものだ。定められた運命などというものはない。毎夜、おまえさん自身が運命の選択をしているのが真実なのだよ」

「私自身が毎夜選択している……?」

「話してもわからんだろうから、今からおまえさんの家に行って実際にみせてあげよう。かくいうわしも、今の仕事は何者かから選択を迫られて突然することになったのだから」
 
私はその話を疑いながらも先生と一緒に自宅に帰り、私は部屋に置いてある椅子にすわった。先生が呪文のような言葉をつぶやきはじめると、私は急に眠くなり、そのまま夢の世界にはいっていった。 
 
そこは霧のように白い闇が支配する世界。最初はさまざまな夢らしきものをみた。なにやら脈絡のない物語のようだ。それから目にみえない存在が、私にいくつか問いかけてくるのだ。「転職先は、A社にするか、B社にするか?」「火事にあうのがいいか、散財がいいか?」私は不思議となんの迷いもなくつぎつぎに答えている。いつもなら優柔不断に考え込んでいるのにだ。そして目がさめたら、先生はどこにもいなかった。まったく訳がわからない。
 
転職先はともかく、財布を落としたその日、近くで火事があった。奇跡的にわが家は無事だった。どうも運というものは取引みたいなものだと思った。すべては自分で決めていることなのだ。いまや私の心に迷いはない。すべては明白だ……と思っていた。しかし、どうにもつまらないのだ。未来の選択ができるということは、まるで犯人やストーリーのわかっている推理小説みたいだ。元に戻してもらおうとしたが、先生はあの日以来、行方不明で先生の家もわからない。あの先生は何者なのだろう。 
 
そしてある夜、いつもの選択の時がきた。「今後、私とのやりとりを忘れるか、記憶しているか? ただし、忘れる場合は……」  

もちろん忘れるだ。ただし、のあとは聞かずに答えてしまった。そしていきなり目がさめると見知らぬ人が私の前に立ち、先生、どんな結果がでましたか? と問いかけていた。みれば私は占い師をしていた先生の服装だ。水晶には私の痩せこけた顔が映っている。場所も先生がいつもすわっていた街角だ。どうやら私はあの先生の仕事を引き継ぐことになってしまったようだ。 
 
それ以来、自分の未来はわからなくなったが、他人の明日は水晶でみることができるようになった。今は、ひたすら私の代わりをしてくれる者を捜している。
          

              (fin)

トップ画像のクリエイターさんは、峰村 桂さんです。
ありがとうございます。

星谷光洋・開運ちゃんねるより
『君の空』オリジナル曲

星谷光洋の『開運ちゃんねる』

星谷光洋の『星谷光洋 MUSIC』


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