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ショートショート『動物会議』

進君がまわりのさわがしさで目をさましました。寝ぼけ眼でまわりを見わたすと、どこかの野球場みたいなところで、たくさんの猫や犬、それからさまざまな動物たちが吠えたりうなったりしていました。

「ここはいったいどこなの!」
 
進君が大声をだすと、
 
「進君。動物会議への出席ご苦労さまです」と、黒猫のマルルがじっと進君をみつめながら話しかけました。

「まさか、ぼくに話しかけたのは猫ちゃん?」
 
「そう、私、委員長のマルルじゃ。進君が寝ているあいだに、進君を動物たちだけの星に連れてきたのじゃ。この星ではどんな生き物も言葉をかわしあえるのじゃよ」

「なぜぼくが? そして動物会議ってなんなの?」
 
「おやおや、十歳になっても今の人間社会のことが理解しておらんのかね。我々ペットとされているものはまだよい。食事の心配も雨に濡れることもない。しかし、野生の猫や動物たちは、とてもひどい目にあっておるのじゃ。そのものたちが生きる場所や食べるものが日々減りつづけておる。そこで、動物たちだけが住む星のものにテレパシーで助けを求めて、地球からこの星に引っ越すことにしたのじゃ。そのまえに我々に親切だった進君に、会議の結果を教えて、人類に報告してもらうことにしたのじゃよ」
 
さきほどまで騒いでいた動物たちが、マルルの話に聞き入っていて、怖いくらいに静まりかえっていました。

そのなかに、進君のかわいがっている猫のミャーもいたのです。進君がミャーに呼びかけると、ミャーは目をそらしてうつむいたようにみえました。
 
「進君のことは、ミャー君からいろいろと聞いておる。毎年冬になると、野生の鳥たちのための食べ物を毎日まいてくれておることや、捨て猫や捨て犬を友だちに頼んだりしておるとかな。ミャー君は進君のそばで暮らしたいそうじゃが、投票の結果、人間と別れることに決まってしまったでな」

「そんな! 人間以外の動物たちを家族のように思っている人たちはたくさんいますよ。なかには悲しい人もいるみたいですけど」
 
「わしの家の者もそうじゃ。わしが病気になったときも、それは親身に看病してくれて、わしの病が癒されたときは泣いて喜んでくれたものじゃ。しかし、これ以上、人間が我々の仲間たちを飼っては捨てるなどをして、仲間たちたちをひどい目にあわせるわけにもいかぬ。我々は人類のペットになるためにおるわけではないのじゃからな」

動物たちがけたたましく泣き叫んだ。進君は、あまりに悲しい鳴き声に、心の風船がパチンと割れて、思わず泣き出してしまいました。

「どうしたら、どうすれば地球に残ってくれるのですか?」
 
「進君や動物思いの人がもっと多くいないと、動物たちが暮らしやすい世界にはならないのじゃ」
 
進君がうえを見上げて泣き続けていたら、ミャーが進君のそばにやってきて、
 
「進君。あなたも私の世界に来なよ」

と、猫なで声でささやいたのです。

「ミャー、すごくさびしくなるけど、ぼくは行けないよ。動物の世界で生きていける気がしないよ」
 
進君がそう答えると、ミャーは進君のほっぺたを猫パンチしました。

進君があまりの痛さに目をつぶり、再び目をあけたら進君の部屋でした。どうやら夢だったようです。ですが、進君は目が覚めてもまだほっぺたが痛いようでなんどもさすっています。

進君の胸のうえにはミャーがいて、ゴニャアと鳴きながらごはんの催促をしているようでした。どうやらなかなか起きない進君に腹をたてて、進君の頬を猫パンチしたようです。

           (fin)

トップ画像の作品は「スクラップれみ」さまです。
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