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SFショートショート『神の視点』

二〇三一年のある日、“神”である私は、世界平和のためのメシヤをおくろうと、さまざまなキャラクタ-の中から、一人だけを選ぼうとしていた。

その者には“神”に等しい力があたえられる。さまざまな〞神〟がトライして、クリアできなかった世界平和のためには、まずはメシヤ選びが最重要項目だ。

結局私が選んだ者は、世界中が毒まみれになり、互いの口から針や刃を吐き散らかし、誰もが傷つき争う世界になったのは、神がいない証だとほざく、生意気な男。

その男は二十代なかばで、体格もよい。まるで少女マンガにでもでてきそうなキャラクターだ。ほかにもさまざまなやつがいた。知的な教授風の男。ほかにも踊り子、空手の使い手などであるが、改革には血気盛んなやつに限る。

私は仮の姿で男のまえに突然現れ、厳かに告げる。

「おまえに三年間だけ神の力を与えよう。その力で世界を平和にしてみるがいい。ただし、人の心を変えることだけはできない。我々も人の心だけは変えてはいけないというのがきまりなのだ。それができたら世界平和など朝飯前だが、それでは操り人形をもてあそぶ遊戯にしかすぎないのだからな」

男はなんら驚く風でもなく、

「神様、よくわかりました。三年後の結果を楽しみにしてくださいよ」と、答えた。

おきまりの儀式を終え、私は男にすべてをたくし、ただ見守り続けるだけにした。すべての設定をし終えたあとは、なにも手をださないほうがよいと思ったのだ。ほかの神があれこれ手をかして、結局、世界の崩壊を招いたことを知っているからだ。

“男の世界”での時間である三年間はまたたくまに過ぎていた。

最初の一年間は欲望のおもむくままに神の力を使っていた。なにしろ思っただけで金も名誉もすべてが実現してしまうのだ。しかし男は、苦もなくなんでも手に入るということにも飽き飽きしていた。

ただ、恋する人の心だけは得られず、彼女に愛されたい一心で、世界平和のための活動をはじめた。宗教、慈善活動、教育改革、政治。 しかし、女にふられてやけになり、世界をすべて水に浸して滅ぼしたあと、未来の世界をのぞいてもあいかわらずの世界だから、過去の世界に戻して予言を流布して警告したが、無駄だった。

男は三年前の時代に戻り、ただ一人ベットに横たわっている。どうすれば世界を平和にできるのか?

男は苦悩し続けたが、結局、世界平和を成就させることもかなわず最後の夜を終えようとしていた。男は眠れない夜が続き、食欲もなく、気力も消え失せてげっそりと痩せこけていた。そこで私は再び男の前に姿をみせたのだ。

「神の力をもってしても、世界平和を成就させることはできなかったようだな」

「はあ……、だけど神様。人の心を変えられないというル―ルなんてやめたらいいんですよ。そうしたら、手軽にみんなが幸せになれるんですから」

落ち窪んだ目もとからは、高貴で澄んだ目の輝きがみえた。なかなか痛いところをついてくるなと思ったが、神らしい態度をとらねばと思いなおす。

「それでは人形と同じではないか?」

「たとえ感情をもった人形だとしても、とにかく、楽しい人生を送れるということが大切だと思いますけどね」

「いや、真の喜びを感じるには苦悩を乗り越えることが必要なのだ」

男はふふんと鼻をならして、にやついた。

「神様。私は今、神の力をもっているんですよ。あなたの心も見抜けるんです。どうせ私は、『救世主ゲ―ム』のキャラクタ―にすぎないんでしょう?」


私はゲームを一時中断し、ひとつ大きく息を吐いた。自分が神となり、さまざまなキャラクターを選択し、仮想の世界で世界平和をめざすシュミレーション・ゲームは、バーチャル・リアリティを使った最新の、臨場感あふれるVRソフトだった。

ただ、誰もクリアできずに、途中で投げ出してしまうソフトだったから、自分こそはと挑戦していたのだ。

キャラクタ―にすぎない存在が、私の心を見透かすような言葉を口にするなんて、なかなかおもしろい設定だ。だけど、私自身もなにかのゲームのキャラクターではないと自信をもっていえるのだろうか?

ふとそんなとりとめもないことを思っていると、突然、誰かが私をじっとみつめているような気配を感じた。そしてしだいに意識が薄れはじめ、自分の姿や周囲のすべてが、古くなったテレビ画面の映像のようにぼやけていった。

思わず目を閉じると、真っ暗な闇のなかに、『GAME・OVER』の文字が浮かんできた。

              (了)

※とっても素敵なトップ画像のタイトルは『よくわかんない』
クリエイターは『tome館長』さん。ありがとうございます。


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