東京オリンピック後、日本セーリング連盟の課題
⛵はじめに
公益財団法人日本セーリング連盟の常務理事に就任して2か月が経ちました。東京オリンピックが終わった今、連盟が抱えている課題はたくさんあります。
あたりまえのことなのですが、組織の課題というのは、組織の中に深く入らなければ気づけないことがありますし、業界の課題も同様です。連盟の課題も、セーリング界の課題も、スポーツ界の課題も、広く知られているものもあれば、意外と知られていないものもあります。私自身、この2か月間で気づいた課題も多くあります。
連盟は公益法人ですから、情報公開し、透明性を高めなければなりません。組織の課題もできる限りオープンに発信して、共有するのが執行部の責務です。
そこで、複数回の記事に分けて、日本セーリング連盟の抱えている課題を私なりに整理して、さらに現時点で私が考えている対策(政策)と共にお届けします。
⛵私たちはまず、知られなけれならない
東京オリンピックでは33競技339種目があり、その中でセーリング競技は10種目がありました。冬季オリンピック競技を含めれば50以上のスポーツがあり、セーリング競技はその中のひとつでしかありません。さらに、スポーツ以外にもたくさんの趣味があります。情報が氾濫し、価値観が多様化する現代社会において、「やってみよう」、「みてみよう」、「ささえよう」と思って選んでもらえなければなりません。
しかし、現実は、「ヨットってなに?」、「セーリングってなに?」と訊かれるほどに、世の中で知られていないマイナースポーツです。全オリンピック競技の認知度調査をすると、最下位だったり、下から2番目だったりします。
多くのセーラーが経験したことがある話ですが、友人や知人に「セーリングをやっています」と言うと、「風の力だけで船が進む」、「漕がない」、「エンジンを使わない」、「船は風上に進むこともできる」といった基本的なことでさえ説明が必要です。ボートやカヌーとの違いが理解されていないことも。「優雅な金持ちのスポーツ」という歪んだイメージを持たれることも多いです。
セーリングというスポーツを多くの人に知ってもらうことは難しいのです。連盟は、これまでずっと、知名度向上に苦労してきました。
⛵スポーツには、社会に提供できる価値が必要
セーリングの魅力や特徴は、もちろんたくさんあります。心を無にして風を切って帆走する快感は、非日常的な体験であり、心を虜にします。心が洗われるような感覚もあります。
しかし、これからの時代において、スポーツの価値とは、受動的な体験(やったら楽しい、見たら面白い)の提供では足りません。さらに、社会に対してどういう価値を提供できるかという観点も必要です。そうでなければ、社会において「不要不急」なものとして、埋没していってしまいます。コロナ禍は、私たちにそう問いかける試練となりました。
連盟は、セーリングというスポーツの価値を、再発見・再定義しなければなりません。
セーリングの価値を自覚することで、連盟な様々な戦略に活かすことができます。そして、魅力と特徴をたくさんの人に伝えて、セーラー仲間を増やすことができます。
連盟は、東京オリンピックという長い「夢」から覚めて、等身大の自分と向き合わなければなりません。しかし、等身大の自分にも、まだまだ価値がたくさんあることに気づきます。
⛵セーリングの魅力・特徴とは
では、セーリング(ヨット)の魅力と特徴とはなんでしょうか。
それは、エイジフリーでジェンダーフリーでバリアフリーなスポーツであることです。すなわち「Diversity & Inclusion」(多様性と包摂性)の理念に合ったスポーツであることです。
セーリング競技は、一定の条件をつければ、老若男女が互角に戦えるし、障害があるかないかも関係なくなります。まさに、「インクルーシブスポーツ」です。
ちなみに、日本セーリング連盟の馬場会長も中澤副会長も、全日本選手権で何度も優勝していますし、世界選手権出場の常連です。セーリングは、60歳を超えてもなお現役トップアスリートでいられる競技なのです。私も8歳からヨットを始めて、35年以上のキャリアです。第一線のレースに参加しなくても、レジャーとして楽しむこともできます。「生涯スポーツ」と呼ぶことができます。
また、日本列島は海に囲まれ、海はわが国の文化の一部であり、時に厳しい自然を相手にするスポーツです。技術や知識、体力だけでなく、チームワークや、判断力、決断力、適応力などを要し、人間の総合的な成長に役立ちます。「子どもを育て、大人を鍛えるスポーツ」とも言えます(もっと良いキャッチコピーを考え中です)。
⛵Diversity & Inclusionを推進します
連盟は、こんなにDiversity & Inclusionを実現するスポーツの魅力をもっと高めて、広めて、活用していかなければなりません。
もちろん、その理想と現実との間には、まだまだたくさんの課題があります。
私は連盟の常務理事として、連盟が社会に対して「セーリングは、多様性を尊重し、包摂性があるスポーツである」と高らかに宣言できるように、連盟のDiversity & Inclusionを力強く、粘り強く推進しようとしています。そのために、連盟の様々な課題を明らかにし、解決策を考え、実行し、前進するプロセスを、皆さんに公開していきたいと思っています。
今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。
…続く
以下、個々の課題(論点)について、今後の執筆予定です。現時点では項目名のみです。
【総合課題:ジェンダー平等】
【総合課題:SDGsへの取組み】
【総合課題:パラスポーツ(パラリンピック復活、JPC加盟)】
【戦略:若手人材育成】
【戦略:会員制度(非競技会員、サブスクリプションモデル)】
【戦略:スポンサー戦略】
【戦略:戦略広報】
【戦略:選手強化の必要性】
【戦略:FTEM(普及から強化へ、パスウェイ)】
【ガバナンス:外部理事、外部評議員】
【ガバナンス:アスリートの組織参画】
【ガバナンス:利益相反管理】
【ガバナンス:財政基盤強化】
【ガバナンス:事務局体制強化】
【普及:セーリング人口増加、生涯スポーツ】
【普及:セーリング体験機会の増加】
【普及:セーリングのスキルの可視化(級認定制度)】
【普及:競技観戦】
【普及:eSailingの活用】
【普及:ディンギーからキールボートへのパスウェイ】
【普及:ファンセーリング、オープンレースの拡大】
【教育:海事思想、海に親しむ、海と共に生きる】
【教育:海洋環境保全】
【国際:国際人材育成、国際ポスト獲得】
【事業:EC導入】
【事業:教育・研修プログラム】
【2025年の大阪・関西万博に向けて】
【2026年の愛知・名古屋万博に向けて】
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