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vs,SJK:vs,……え? Round.5

「ジュ……ジュン? どうしたってのさ!」
 攻撃をさばきながら、ボクは必死に呼び掛ける!
 手刀! 回し蹴り! 裏拳!
 流れるかのような矢継やつばやに繰り出される攻撃!
 拮抗した攻防は、はたして両者〝PHW着用〟のせいだろうか?
 一撃一撃のキレが鋭い!
 普段は文芸派のクセに!
 おまけに各攻撃がレーザーコーティングを帯びている!
「危なッ! 危ないって!」
 こんな仕様〈PHW〉には無かったはずだぞ!
 少なくとも、ボクが聞いている範囲では!
 そんなもんだから、完全鋼質化を発現していても油断はできない!
 仮に〈エムセル〉が硬度勝ちしても、打ち付けたジュンの四肢が砕骨してしまう怖れもある。
 従って、回避の一点張りだ!
「クックックッ……さすがの日向ひなた嬢も、相手が星河嬢では手が出せんか?」
 姦計かんけいの立役者が、腹立たしく含み笑う。
「この卑怯者! ボクのジュンに、いったい何したのさ!」
「君達も、よく知ってるはずだが? 我々われわれ宇宙人エイリアン〉と呼ばれる種が、拉致した地球人を記憶操作する事象を……」
「スルメ!」
「うん?」
「いや、違った……アブったのか!」
「アブ?」
 通じない。
 そりゃそうか。
「つまり、星河様をアブダクションによって洗脳した……と?」
 平然と傍観に徹しているラムスが、解り易い要約で会話を進展させる。
「ハーッハッハッ! その通りだ、ラムス嬢! 彼女をさらったのは、まさにこのため・・・・! 如何いか日向ひなた嬢が予測不能の無鉄砲とはいえ、相手が星河嬢では手も足も出せまい! これほどうってつけの狩人ハンターはいないからな!」
 ああ、何だ。
 コイツってば〈コンダクター能力〉の事は知らないんだ?
 うん、じゃあ黙っていよう。
 メンドだし。
「このレーザーコーディングもオマエの仕業か! うわっと?」
 青光りの手刀をける!
「いいや? それは星河嬢のパモカアプリだ」
「こんなモン、パモカに無いよ! うひゃう?」
 今度はハイキックをけた!
 り体勢のあごさきを、電光のごとき軌跡がぎ過ぎる!
「どうやら自作アプリのようだね。いつかは君の隣に並び立って戦うつもりだったのかもしれないが……クックックッ……皮肉なもの──」
「ブフゥゥゥーーーーッ♡ 」
「──日向ひなた嬢ォォォーーーーッ?」
 鼻血噴いた!
 あまりの健気さに悩殺された!
 やっぱ大好きだ! ジュン!
「なるほど……確かに合理的なやり方ですわね。品性的には下劣極まりありませんが。けれども、少々〝我が家のバカ大将・・・・〟をあなどっていますわね?」
「何?」
 不敵なまでのラムスの平然さに、ジャイーヴァが怪訝けげんの色を返す。
 ってか、オイ? 毒舌メイド?
 キミ、いま何つった?
「確かに星河様相手では不利である事は必至──ですが、足は出さなくとも手は出しますわよ? あのかたは……」
 しれっと余裕をカマす。
「クックックッ……何をバカな。私は、過去の戦闘データから日向ひなた嬢の弱点を割り出したのだ。彼女は絶対に星河嬢を攻撃出来ない!」
「ええ、でしょうね」
「それとも、何かね? 私の動揺を誘う心理戦のつもりかね?」
「いいえ? ですが、あのかた必ず手を出します・・・・・・・・わ。それが確実・・と解っていますから、わたくし、加勢致しませんの」
 いや、しれっと「致しませんの」じゃないよ。
 加勢しろよ。そこは。
 ボクは回避の一呼吸ひとこきゅうに、ジャイーヴァへと叫びう!
「じゃあ、現状いまのジュンは!」
「クックックッ……察しの通りだよ、日向ひなた嬢。完全に、私の〝操り人形マリオネット〟だ。もはや君の事・・・すら認識していないだろう」
「ありがとぉぉぉーーう ♡ 」
 背後から回り込んで、思いっきり両手みした!
 憧れのを!
「ぎゃん!」
 迅速のフランケンシュタイナーで吹っ飛ばされたよ……。
 ってか、いまの対応早くないかッ?
「……何を考えているのだね? 君は?」
 あきれたかのような困惑を持て余すジャイーヴァ。
 ボクはガバッと復活して熱弁!
「だって、それなら記憶に残らないじゃん! み放題じゃん!」
「……いや、それは違うんじゃないかな? うん、違うなぁ?」
 何だよぅ? ド変態グレイ?
 オマエの性癖せいへきだって、コッチ側・・・・だろ!
「ですから、言った通りでございましょう? 必ず手は出す・・・・……と」
 みずからの的中を優越するラムス。
 行動パターンを熟知されていた家族ボクにしてみれば、何だか誇らしくもあり腹立たしくもあり……。
「翔べ! 日向ひなたマドカ!」
「ふぇ?」
 シノブンの警告で、意識が戦況へと返る。
 ヘリウムバーニアを噴射したジュンが、床スレスレをすべるかのように突撃を仕掛けて来た!
「危なッ!」
 間一髪の急上昇が間に合う!
 さっきまで居た場所に、レーザー手刀の青い弧が刻まれた!
「クックックッ……いいぞ。もっと戦い合え! 互いに持てる死力を尽くせ!」
 皮肉な対決をあざわらうジャイーヴァ!
「こ……このヤロウ!」
 ボクは呪詛に唇を噛んだ!
「セーラー服美少女が宙を舞い、アツき異能バトルを展開する……クックックッ……萌える! 最ッッッ高に萌える!」
「こぉぉぉんのヤロォォォーーッ?」
 呪詛が別な意味合いになったよ……。
 サブイボ混じりに……。
 獲物を仕止め損なったジュンが、自我損失の瞳で滞空するボクを見定めた!
 軽くひざを折った屈伸体制で、ブリッツスカートのすそほのかな青をともす!
「また来る!」
 そう身構えた瞬間、不意を突いた奇襲が彼女の行動を阻害した!
 空を裂くかのように鋭く投げ放たれた苦無くない
 戦闘マシンと化したジュンは油断無く察知し、レーザー手刀ではじくと同時に跳躍で襲撃者との距離を取る。
 シノブンだ!
 彼女は両手持ちの苦無くないを眼前に構え、牽制けんせいにジュンをにらえる!
日向ひなたマドカ、加勢する!」
「シノブン? ダメだよ!」
「……貴様には借りがあるからな」
 乾いた微笑びしょう口元くちもとたずさえた。
 あたかも〈戦士〉としての非情を覚悟したかのように。
 ……え? あれ?
 る気じゃないだろうな?
胡蝶こちょう奥義おうぎ幻影げんえい乱舞らんぶ
 凄みすら感受させる低い抑揚!
 そして、シノブンの体がプリズム的な光彩を帯びて分身する!
 一人ひとり二人ふたり──二人ふたり四人よにん────最終的に八人はちにんのシノブンが出現した!
 ようやく〝忍者〟の肩書かたがき面目躍如めんもくやくじょ
「参る!」
 息つく暇も与えずに、次々と一撃離脱を繰り出すシノブン軍団!
 文字通り、四方八方 しほうはっぽうから!
 故意か偶然か〈モスマン〉の飛行能力とは相性がいい戦法ではある。
 しかし、現状いまのジュンも、対等の戦闘技能で対応できた!
 ヘリウムバーニアの小出し噴射で軌道からはずれ、回避しきれない攻撃はレーザー手刀しゅとうはじらす!
 宇宙忍者vs戦闘マシンの戦いは、まさに別次元!
 迂闊うかつに常人が介入できないほどの高速展開だ!
 うん、じゃなくて──!
「はい、そこまで!」
「うひゃああーーーーッ?」
 背後からGを鷲掴わしづかみにした。
 うん、シノブンの。
「苦も無く本体・・見破みやぶるなーーッ!」
「こっぽおッ?」
 腰の入った掌底しょうていでブッ飛ばされたよ。
 ってか怒気どきる理由、そっち・・・
「うう、痛ててて!」
「どどどどういうつもりだッ! 日向ひなたマドカッ?」
「シノブン、手出し無用」
「何?」
「ジュンの相手は、ボク・・がするよ」
「し……しかし?」
「いいから! 借りを返すっていうなら御願い!」
 必死な懇願こんがんに拒否する!
 と、その時──「よろしいじゃありませんか? 本人がやりたいようにやらせて差し上げれば」──穏やかな口調でラムスが引き取ってくれた。
「ラムス? 解っているのか? 日向ひなたマドカは、防戦一方いっぽうなのだぞ! それでは、やられるのも時間の問題──」
「やられませんわよ?」
「え?」
「あのかたが、やられるわけがあるはずないじゃありませんか……絶対に」
 毅然とした瞳で、ボクを見据える。
「……ラムス」
 交わす視線に確かめ合う信頼。
 家族として……友達として、はぐくんできたきずな
 感傷的なぬくもりが込み上げて来る──とか思った直後!
「例えブラックホールのド真ん中へ叩き落とそうとも、光速ロケットエンジンにくくり付けて外宇宙銀河へ投棄しようとも、あのかたは死にませんわよ。ことわざに『馬鹿は死ななきゃ治らない』とございますが、マドカ様は『死んでも絶対に治らない馬鹿』──逆説的に解釈するならば〝絶対死なないおバカ者〟という事ですもの」
「どういう強引な解釈だァァァーーーーッ!」
 ボクは絶叫で猛抗議!
 まさかの猛毒吐きやがった!
 この局面で!
 だけど、まぁ……正直、助かったのは事実だ。
 そりゃシノブンが加勢してくれりゃ、戦力的には頼もしいよ?
 だけど……そうしたらジュンかシノブン、どっちかが傷付くじゃん?
 そんなん、ボクはイヤだもん。
 ダメージから復活したジュンが、無感情に起き上がる。
 段々〈殺人アンドロイド〉にも見えてきたな……。
 そして、再び繰り広げられる近接戦!
 ボクにとっては命懸けの組手だ!
「ねえ! ジュン! ホントに忘れちゃったの? ボクの事!」
 寂しくなる心情をグッとこらえ、いまだけは強さ・・に転化する!
 泣いている場合じゃない!
 そんなん後だ!
 やるだけやってからだ!
 ナメんなよ! ジャイーヴァ!
 いまどきの女子は、泣いて終わるほどヤワ・・じゃないからな!
「思い出せよ! いろいろ楽しかったじゃん! 学校とか! マドナとか!」
 一瞬──ほんの一瞬だけ、ピクリと反応した。
 わずかな時間差ラグを置いて連撃再開したけれども。
 たたみ込むなら、いまだ!
 直感が、そう告げる!
「初めて出会った時、んだろ! それからは毎日のようにんだ仲じゃん! 登校した時にんだ! 昼休みにんだ! 帰り道でもんだし、休日一緒に街ブラした時だってん──うわっと!」
 攻撃の鋭さが増した!
 何故だろう?
 何故かしら?
「まったく、いい加減……思い出せーーッ!」
 痺れを切らせて、思いっきりんだ!
 ってか、むしろ握った!
「痛たたたたたーーーーッ?」
 さすがのジュンも、たまらず悲鳴を上げ──って、あれ?
「痛いわーーッ! このおバカ者ーーーーッ!」
「おぶんッ!」
 久々にパモカハリセンが、ボクの顔面へとフルスイング!
 場外ホームランとばかりに、ジャイーヴァの足下まで吹っ飛び転がる!
「かた……かた……形が崩れたら、どうしてくれるのよ! このおバカ!」
 身をよじった寄せ乳で、大事をかばっていた。
 その紅潮が〝恥じらい〟か〝怒気どき〟かは知らんけど。
「バ……バカな!」
 驚愕隠せぬジャイーヴァ!
 わなわなと震えて現実を拒否する!
「こ……こんな事で……こんなバカな展開で、が洗脳が解けるだとーーッ?」
「当たり前だろ」と、ボクは起き上がり、この愚か者へと敗因を告げた。「まさか洗脳刺客って事で『戦え! イ ● サー1』みたいな感涙的展開でも期待したか?」
「ひ……日向ひなた嬢ッ?」
「なるワケないだろーーッ! この作品は無責任小説『vs, SJK』だぞーーーーッッッ!」
「そんなアホな理由でーーーーッ?」
 驚愕しきりの悪魔面あくまヅラへと、怒り心頭の鉄拳を叩き込む!
 叩き込む! 叩き込むッ! 叩き込むッッ!
 叩き込む叩き込む叩き込む叩き込む叩き込む叩き込む叩き込む叩き込む叩き込む叩き込む叩き込む叩き込む叩き込む叩き込む叩き込む叩き込む叩き込む叩き込む叩き込む叩き込む叩き込む叩き込む叩き込む叩き込む叩き込む叩き込む叩き込む叩き込む叩き込む叩き込む叩き込む叩き込む叩き込む叩き込む叩き込む叩き込むッ!
「ムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネムネェェェーーーーッ!」
「にッ! らッ! さッ! わッ! さッ! んッ?」
 血飛沫ちしぶきを噴いて、吹っ飛び沈む下衆ゲス宇宙人グレイ
 ボクは二指にし敬礼けいれいを払って、感慨かんがい無き哀悼あいとう手向たむける。
「ムネヲークレ(さよならだ)」
「……何処の国の言葉ですか」
 ラムスがあきれてツッコんだ。
「うっさいなぁ? ウーソン王国だよぅ?」
「ずいぶんと懐かしい伏線ですわね……ソノム・ネクレー様?」
 冷ややかさが二割増し。
 うん、そのせつはゴメン。

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