vs,SJK:vs,ブロブ Round.5
「カ・レ・ー・だ ♪ カ・レ・ー ♪ 」
「カ・レ・ー・だ ♪ カ・レ・ー ♪ 」
姉妹揃ってルンルン気分。
ボクとヒメカは夕飯メニューを連呼しながら、商店街をスキップしていた。
「御二人共、少しはおとなしくして下さいませ。周囲の方々に迷惑ですわよ?」
軽く羞恥心をはにかみながら、同伴保護者──ラムスが窘める。
「だってボク、カレー大好物だもん」
「ヒメカも、ラムスちゃんのカレー楽しみなんだもん」
「もう」
夕飯材料買い出しの一幕だ。
ラムスが家に来て、既に一週間。
こうした微笑ましい光景は、もはや日常になっている。
商店街の人達にしても、ラムスは顔見知り客だ。
無論〈ベガ〉って事は知らないけど。
それはさて措き──やがて見えたるは、スーパーマーケット『ラブライフ』!
「ヒメカ、アレが我々の目的地だ!」
「らじゃ!」
秘境探検隊の如く志気と敬礼!
「よっしゃ! いざ乗り込むぞ!」
「その前に!」意気揚々と勇み出すボク達を、ラムスが襟首掴んで制止した。「宜しいですか? この間みたいに、余計な物をカートへ忍ばせない事!」
「「ええ~?」」
「特にマドカ様? 何百円もするお菓子を、まとめ買いしませんように」
「だって、全部買わないとロボットに合体できないんだもん」
「し・ま・せ・ん・よ・う・に!」
「は~い」
渋々了承する。
仕方ない。
今日のところは我慢しよう。合体を。
「二個ならいいというわけではありませんからね?」
見透かされていた。
「ヒメカは『魔法戦士チョコ』欲しかったな……」
「コホン、に……二個だけですよ?」
「うん♪ 」
贔屓だ!
皆の者、此処に贔屓がおるぞーーッ!
この店舗は結構デカい。
食料日用品から雑貨まで何でもござれだ。
エスカレーター完備の二階建てだし。
ってワケで、ヒメカとラムスが仲良く買い物する最中、ボクは一人でブラブラと物色がてらに彷徨く。
若干、フテながら。
別に妬いているワケじゃない。
理由は、もっとシンプルだ。
「ちぇっ、残り五体だけで合体できるのに……『十二神将合体ゴッドブッダ』の完成形態」
と、前方に見知った顔を発見。
「あ」「あ」
互いに視認して声を漏らす。
次の瞬間、ボクの甘えん坊スイッチがオン!
「うわ~~ん! ジュ~~ン! 合体したいよ~ぅ!」
「公衆の面前で、いきなり何を口走ってるかーーッ!」
泣きついた途端、激昂ながらに拒否られたよ。
横っ面へのハリセンアプリで。
イートインコーナーの一卓で、ボクは慰められていた。
ジュンが奢ってくれたソフトクリーム……おいし ♪
「でも、それはラムスが正しいわ。目的は夕飯の買い物なんだし、彼女だって預かった予算で計算している。そんな中でオモチャなんて買っていられないわよ」
「オモチャじゃないよ! お菓子のオマケだよ!」
「主体は〝オモチャ〟なのに、申し訳程度のお菓子を付属させて便宜上〝菓子〟として分類販売させる──食玩商法っていうのよ、そういうの」
「でもさ? ヒメカの『魔法戦士チョコ』はオッケーなんだよ?」
「それってオマケは?」
「シール」
「値段は?」
「八十円」
「あなたのは?」
「六百円」
「高ッ!」
「プラモデルとシールを秤に掛けるな!」
「プラモデルを買おうとするな」
冷徹な正論で撃沈された。
ボクはテーブルへと突っ伏す──いや、突っ伏死すると涙声ながらに訴える。
「合体したいよ~ぅ……ジュン、どんな感じになるのか合体してみたいんだよ~ぅ」
「分かったから! 分かったから、私の名前を織り込まないで!」
周囲の目を気にしてアワアワしていた。何故かは知らないけど。
とりあえずアイスミルクティーを嗜み、彼女は強引気味に平静を取り戻す。
「でも、安心した。ラムス、うまくやっているみたいね。ヒメカちゃんは、すぐ受け入れたの?」
「意外と早く思い出したよー……教えてから一分で」
ボクは突っ伏死フテ寝で対応した。
いくらヒメカでも信じるまでは時間が掛かるかと思いきや、信じる信じない以前に記憶が戻った。
たぶん心の底に、こびりついていたんだろう。
それだけヒメカにとっても〝大事な友達〟だったってワケだ。
人間の〝大切な記憶〟が、機械なんかで完全操作できるわけがない。
そう、できてたまるか!
だから、ボクの〝胸ペッタン〟という心象も摩り替えられないんだよ……シクシク。
「ラムスが〈ベガ〉って事も思い出したの?」
「出したよー」
覇気無く突っ伏死たまま返す。
ボクの気力が枯れている事を感じ取ったか、彼女は無難な話題へと推移した。
「にしても……あなたのお母様も、あんな同居理由をよく通したわね」
「ウチのお母さんは〝殺る時は殺る女〟だもん」
「それ……たぶん賞賛の字、間違ってる」
口頭で、よく分かったな?
でも──「間違ってないよぅ」
「はい?」
「実際、今回の件を承諾させる過程で、ボクは〝ウェスタンラリアートのちタイガードライバー経由ドラゴンスリーパーホールド〟を喰らったし」
「……技の名前は解らないけど、何かエラい目に遭ったのは分かった」ドン引きしながら、気マズそうに氷をストロー突っつき。「まあ、あんな嘘じゃあね」
「別にボクを疑ったわけでもなければ、新家族提案への拒否でもないよ。ボクのお母さんは、基本的に情が篤い人だもん。むしろ『彼女には身寄りがいなくて天涯孤独』って訴えたら、深い同情を寄せていたぐらいだし」
「じゃあ、何で?」
「帰宅したら、ボクの部屋が半壊していたからだよぅ……ボクの顔を見るなり、問答無用で『今度は何やったぁぁぁーーッ!』って……シクシク」
「……ああ~~~~」
「何さ? その妙に納得した『ああ~~~~』は?」
「いえ……日頃の程が窺えるなぁ……って。あなたの信用具合」
「失敬だな!」
「失敬かなぁ?」
本気のクエスチョンでやんの。
「半殺されるボクを目の当たりにして、さすがのラムスも戦慄に凍りついてたっけ……」
「宇宙怪物が引く日向家って、いったい……」
「ま、ヒメカが直訴して怒りを鎮めたんだけどね」
手頃な会話も尽き、二人して微妙な沈黙にたゆとう──。
やがて、ジュンが眼差しを落として呟いた。
「ねえ? 今回の件で改めて思ったんだけど……〈ベガ〉って何なのかしら?」
「少女型ベム」
突っ伏死継続で無気力且つ簡潔に答える。
投げやりな感情に苛まされて、もう全部がどーでもいいし。
「それは判っている。でも何故、総じて少女型に?」
「萌娘の方がいいんじゃないのー? 読者的にもー?」
「何だ〝読者的に〟って」
ジュンはアイスティーで気持ちをリセット。
「ヒメカちゃん、毎日楽しいでしょうね。新しい姉妹ができたみたいで」
「何だよぉ……ジュンまでヒメカヒメカって」
思いっきり拗ねた。
「何? 妬いてるの?」
「うん」
肩を竦めて苦笑すると、ジュンは優しい抑揚で慰める。まるで駄々っ子を諭すように。
「大丈夫よ。ヒメカちゃんにとって、ラムスはあくまでも親友。何だかんだ言っても〝大好きなお姉ちゃん〟は、あなただけよ」
「じゃなくて……ジュンってば、ヒメカには優しい」
「え?」
「ボクだって、ジュンにアマえたいのに……イジイジ」
「え……えっとぉ?」
何故か頬を紅潮させてドギマギしていた。
ボクは素直な心境を答えただけなんですけど?
「ハァ……本当、世話が焼ける娘なんだから」
「ふぇ?」
慈しむような困惑に、ボクはようやく顔を向けた。呆けて締まりない顔を。
顎線に指を添えて、何やらジュンは思案する。
「う~ん、そうねえ……一個だけならいいかな?」
「何が?」
「そのプラモデル、一個だけなら買ってあげる」
「ええッ! いいの?」
思わず興奮して、ガバッと起立!
ボクの現金な態度を見て、彼女は微笑んだ。
「人知れず頑張ってるから、私からの御褒美。私も臨時の収入があったしね……この間の模試、成績良かったから」
「じゃあ、三号と七号と九号と──!」
「一個だけ!」
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