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侵略者

 その惑星は、実に稀有な存在であった。

 生命の源たる水は潤沢に律を奏で、大自然の緑を謳歌と染めていた。
 この銀河に於いて貴重な資源の宝庫であり、或いは物質的価値を差し置いても唯一無二の恵まれた環境は〝青き宝石〟と形容されるべき美しさを暗闇に燦然と誇示した。
 だからこそ、他惑星は嫉妬を抱き、羨望を向け、常に強い関心を注ぐのである。
 
 とりわけ〝赤き荒涼の惑星〟に棲まう者達は、遥か昔から侵略計画を企ててきた。
 あの〝青き惑星〟に生息する原生民族は、相応の文明レベルを保有しながらも知性発達に於いては未熟……ともすれば幼稚な下等蛮族でしかない。不釣り合いな害虫だ。
 侵略するには容易い。
 科学水準が違いすぎる。
 しかしながら、本格的な侵攻計画は見送られ、やがて不確定な長期頓挫へと陥った。
 内政状態の悪影響だ。
 統治政権の派閥争いが長く続き、結果、ハト派が与党と政権掌握した為に平和的共存の方向へと舵切られたからである。
 出撃指令を期待して意気を燻らせていた兵士達にしてみれば不満が無いワケでもないが、計画そのものを潰されなかっただけでも幸運とせねばならない。おかげで部所は保留に残され、彼等の働き口も残留扱いとされたのだから。
 それを強いたのは、これまで注ぎ込んだ開発運営費がバカにならなかったから……というのが本音だ。
 今後は徐々に平和的運用へと推移していく事だろう。
 円盤型宇宙航行艇は惑星探査の目的に仕様改造され、兵士達は惑星調査員として宇宙を飛び回る事となる。


 それから数年が経過した──。

 再び軍国主義が政権掌握する交代劇となり、ようやく軍部も本来の姿へと息を吹き返す。

 だがしかし、もはや、あの惑星を侵略する事は無い。
 僅か数百年の内に青は黒に毒され、醜悪な老体へと姿を変えた。
 侵略するだけの価値すら失せた滅亡のカウントダウンだ。

 現在、彼等〈火星人〉の関心は、新たな別問題へと推移している。
 あの〝黒い惑星〟から飛来して来る侵略者達を、どうにか撃退せねばならぬ事だ。
 迎え撃つには容易い。
 科学水準が違いすぎる。
 さりながら、終わりは見えない。
 駆逐しても駆逐しても、次から次へと毎日侵攻して来る。
 害虫の繁殖力はしぶとく、飽食への貪欲さは侮れない。
 今日も紅い空には無数の船団が黒雲と覆っていた……。

[終]

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