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音源で知っていたはずのアーティストをフェスで知った

SYNCHRONICTY'23。初めて訪れたがとても楽しいフェスだった。

渋谷のライブハウスを会場とした都市型サーキットフェス。わりと長い歴史のあるイベントのようだが、私が存在を知ったのはたった一年前の2022年春頃だった。これだけ実のあるライブ経験ができるなら、今まで行かなかったことがもったいないくらいだ。

前夜祭含め3/31(金)から3日間開催されたうちの、最終日である4/2(日)だけ参加してみたのだが、4/1(土)も行けばよかったかなーと結局後悔している。

この記事では、フェスに行ってみての感想をつらつらと述べていく。


魅力的なラインナップ

まずは出演アーティストから。数多のフェスと同じく、出演者と日割りが複数回に分けて発表されるスタイルだったが、発表の度に自分が好きなアーティストを調べてくれたのかと思うほどに惹かれる並びだった。 それもごく最近好きになったバンドばかりの出演が続々と決まっていて、選出のセンスがいいなーと偉そうに感心していた。

何故そこまで刺さるラインナップと感じることができたのか。最近は専らSpotifyのおすすめからディグるのが趣味になっていて、好きな音楽の間口が広がったのも理由の一つだと思う。更には、このイベント自体が"都市型ミュージック&カルチャーフェスティバル"と称されているように、都会的で先進的なアーティストを数多くフィーチャーしているからだろう。

最終ラインナップ

比較するようで良くないかもしれないが、私が学生時代に毎年行っていたロッキンやCDJの出演者には、最近はあまり魅力を感じなくなってきた。自分自身が世代的にマジョリティではなくなってきたという時の流れもあるとは思うが、音楽の趣味嗜好が少し変わってきたように自分でも感じる。コール&レスポンスを重視するバンドよりは、自由に揺れたり踊ったりできるアクトを観たいと思うようになった。

そんな、従来の"野外フェス向き"なアーティストじゃなくても輝ける場として素敵なフェスになっていた気がする。

都市型という身近さ

フェスに行くという行為には、腰の重さが伴う。大型フェスと言えばひたちなか・幕張・苗場がメインどころだろうか、最近でこそ埼玉・蘇我・川崎など都民からしたら近郊に位置する会場で開催されるフェスも増えてきた印象だが、"渋谷"の身近さと言ったらない。

平日の仕事終わりにライブに足を運べるほどの場所に、いつか観たいと思っていたアーティストが集うなんてとにかく都合が良い。

それから何より会場間の距離が近い。野外フェスは言わずもがな、仙台に住んでいた頃同様にサーキットフェスに行ったことがあるが、わりと会場間が遠いなという印象が強かった。ところが渋谷の各ライブハウス間は徒歩2分くらいの距離にあるので、移動が全く障壁とならない。こうした、ライブ体験そのもの以外の面で不便や不満が無いことは、参加者にとっては実はかなり重要なことだと感じた。

"ちょっと気になる"アーティストを観に行ける

前述した2つのポイントはとても単純な魅力だが、それらの相乗効果によってSYNCHRONICITYには更にユニークな魅力が生まれていると思う。それは"ちょっと気になる"アーティストの生のライブを観に行けることである。

世間的に大人気のアーティストは大型フェスに行けばいくつか繋げて観ることができるし、自分が熱狂的に好きなアーティストはワンマンライブのチケットを買えば良い。では例えば、ディグっているうちに最近良いなーと思うバンドをいくつか見つけたとして、でも都合良くフェスにまとまって出てくれる気配も無いし、やたらめったら気になったバンドのワンマンに行けるほど時間もお金も無限じゃない。

そんなときに、音楽性の近いアーティスト同士がいい感じにまとめられたタイムテーブルを、手軽にフラッと観に行ける、それがこのフェスの魅力だと感じた。

その結果どうなるかというと、サブスクで聴き込んで満足していただけのアーティストたちの、本当の顔を観る機会が生まれるのである。このフェスが無かったらもしかしたら敢えてライブを観に行くことも無かったかもしれない人たちと生身で出会うことができる。

ライブの感想

ここからは当日観に行ったアクトの感想をダイジェストで。

BREIMENは昨年ワンマンに行こうとして体調不良により断念したバンド。初めて生のパフォーマンスを見たが、程良くリラックスした演奏とそこに乗るグルーヴが彼らの魅力だと感じた。ライブの途中で、次に演奏する曲は速い曲が良いか遅い曲が良いかを観客に問いかけて決めるというなんとも気の抜けた、ほっこりするテンションでライブが進んだ。ミーハーなので「MUSICA」を聴くまで帰れないと思っていたら、ラストに演奏してくれた。

次のステージの入場規制を恐れながらも、会場移動の近さが功を奏して最後まで見届けることができたのだった。

続くはchilldspot。こちらも初めて生で観たが、この日ガラリと印象が変わったアーティストの一つ。最近の曲の傾向からして「BYE BYE」「Like?」などアッパーチューンが増えてきたなとは感じていたが、正直もっと陰気で内向きなバンドだと思っていた。

ところが蓋を開けると、自身初の声出しライブに高揚したように会場を思う存分煽りながら、観客を巻き込んだ熱気のある空間を作り出していた。「BYE BYE」では観客に呼びかけながら一体感を生み出す余裕も見せた。

さらにセットリストは曲調もBPMも振れ幅が広く、ゆったりと揺れる「Weekender」なんか特に最高だった。

元々抱いていた内向的なイメージはどこかへ行って、ライブが終わる頃には彼らが眩しく見えて仕方なかった。

ごく最近知った新東京も初めて観ることができた。O-EAST 2ndというかなり小さなサブステージでの出演ではあったが、確実にこの日印象を残したバンドだった。

そのハイセンスな音楽性からは少し想像し辛いくらい、メンバー個々の存在感とバンドしての圧が強かった。ギターレスでここまで迫力を出せるのは凄い。この日リハーサルで演奏していた「ショートショート」、いつかはフルで聴きい。

ギターレスのアクトは続いて、TENDRE。もはや大御所の貫禄と余裕を見せながら、BREIMENと同じように肩の力が抜けた心地良い演奏だった。

昔の曲をかなり多くやった印象で、「HOPE」「hanashi」のストリームは優しさに溢れた幸せな空間を作り出していた。

一方でフェス用のアジテーションもなかなかなもので、「DOCUMENT」「RIDE」では声を出して煽りながらフロアを揺らす。 私はワンマンにも行ったことがあったのだが、同伴者にTENDREのライブを初めて見せられたのが特に嬉しかった。

続くメインステージまでの間のtiny yawnは、途中抜けも挟んでのながら聴きだった。Spotifyでフォローリストに入っているくらいには一度は耳にしたバンドだったが、もう少し聴いてみようかなと。chilldspotといい、これだけ自分たちの音楽性や記名性を確立している人たちがまだまだ若いと思うと末恐ろしい。

Lucky Kilimanjaroは最終日のラインナップの中ではかなりのビッグネームだっただろうか。ラッキリのグッズを身に着けた人はかなり多かったように思う。

ライブ開始前に機材トラブルが起きたり、演奏の途中メンバー間でツッコミが入るほどのズレが生じたり、少々アクシデントにも見舞われていたが、そこはさすがの現場力。ネームバリューに恥じず、この日一番の盛り上がりを見せていた。

「ファジーサマー」「Heat」「またね」「一筋差す」などの最新曲を惜しみなく披露して、新しいアルバム『Kimochy Season』への期待を募らせた。

最後はBialystocks。初めて観た彼らのライブは、個人的にはこの日のベストアクトだった。

ジャズピアニスト擁するバンドならオシャレで小綺麗にまとめても形になりそうなところ、そんな程度じゃ終わらないと言わんばかりの熱量に溢れたソウルフルな演奏だった。こんなにアツい人たちだったのかと、彼らもまたライブを観て大きく印象が変わったバンドの一つだ。

「Nevermore」の静寂を切り裂くように叫ぶパートも、「灯台」の高音を歌い上げるパートも、「I Don't Have a Pen」の何重にも重ねられたゴスペルのようなコーラスも、とにかくボーカル面でのハイライトが目と耳に焼き付いている。

アンコールは、私が彼らを知ったきっかけである「差し色」。何かの縁を感じながら、SYNCHRONICTY'23でのライブ体験は幕を閉じた。


日頃からSpotifyで音楽を漁ることを趣味としている私にとっては、たとえライブに行かなくとも音楽を通じた楽しみは十分に得られている。音源を聴き漁りながら、本当に気に入ったアーティストだけライブに行けば良いかなと、これまでは思っていた。

ところが今回のフェスへの参加を通じて、バーチャルな空間で波紋のように広がった様々なアーティストへの興味が、現実と同期した瞬間に立体感を増す経験が気持ち良いということに気づくことができた。

アーティストだって人間であって、その生身の姿を見て初めて、その人たちのことを"知る"ことができる。改めて書いてみると至極当然のことのように思えるが、兎角アートの世界では時折そのことを忘れがちになる気がする。

記事を書いているうちに、結局フェスって良いねというまとめに落ち着いた気もするが、まあそれでもいいかなと思う。

最後に付け加えるとしたら、世の中に数多のフェスがある中で、少なくとも来年のSYNCHRONICTY'24は絶対に行きたい。

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