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羊文学 TOUR 2022 "OOPARTS" @ Zepp DiverCity Tokyo 2022/06/28(火)

圧巻のツアーファイナル。羊文学が纏う美しさと儚さと強さを生でひしひしと体感できた。

新旧織り交ぜたセットリストのバランスが最高で、新譜『our hope』の曲群の凝った魅せ方も素晴らしい。

メンバー一人ひとりの個性も爆発していた。
塩塚モエカの圧倒的な歌声と表現力や表情、轟音のギターサウンドは言うに及ばず。
立ち位置指定がステージ向かって左の前から4列目だったこともあり、河西ゆりかの力強いベースラインと美しいコーラスが今回は特に印象的だった。
フクダヒロアが時計のように正確に刻むビートも、音源では聴いていたけどライブでもこんなに綺麗なのかと感嘆した。

レビューやレポートは鮮度が命。色々覚えているうちに書きたいと思った。

アルバム『our hope』そのもののレビューは5月に書いた別記事にて。

01. hopi ~ 05. 砂漠のきみへ

ステージには薄いカーテンのような幕が下りた状態でライブのスタート。『our hope』の1曲目を飾る「hopi」では、フクダヒロアのキックに合わせて白熱電球がゆらゆらと点滅する。まさに"遠くに滲むオレンジ"。

幕が下りたまま続く「mother」は前作『POWERS』のオープニング曲だが、生で聴くと音の迫力が全く違う。ここまで轟音でかき鳴らす曲だったのかと改めて驚いた。

3曲目、自分にとっては最高のサプライズ「雨」。イントロと共に、さっきまで3人を覆っていたカーテンが勢いよく落下。演出も完璧だった。
ライブ前に「雨」か「踊らない」を聴きたいと話していたので1/2が叶ったことになる。

セットリストを見返すと、2018年以前からはこの曲のみの選出だった。
こういった初期の荒々しくてスリリングな曲は、近年のアルバムの世界観とはかなりかけ離れるので落選かなと思っていたが、ポジショニングの妙。
ライブの起爆剤としてこれからもどんどん演奏してほしい。

「光るとき」は息が詰まるほど素晴らしかった。
「雨」で若者のように飛び跳ねながら演奏していた塩塚モエカは、この曲になると途端に神々しく見えた。曲によって目線や視点を変えながら歌い演奏する力が、この曲に代表されるタイアップワークスで洗練されたのだろうなと感じた。

続く5曲目は、こんな序盤でやるの?と驚いたお気に入りソング「砂漠のきみへ」。イントロが鳴るまでの3人集まっての微妙なセッションで、次の曲を当てるのが楽しい。

06. なつのせいです ~ 09. 金色

『you love』の緩くフワッとした風が吹くような夏の情景へ、そして『our hope』のメインストリームへ戻ってくる見事な繋ぎ。

記録的な猛暑が続く日々に「なつのせいです」が響いた。

「あの街に風吹けば」→「電波の街」→「金色」、屈指のポップソング連発は、序盤の轟音とは打って変わって優しくも芯を持った等身大の表情を見せていた。

「電波の街」はライブ定番曲になってほしいくらい爽快感があったし、「金色」では河西ゆりかのコーラスワークが特に目立って素晴らしかった。
やっぱりこういう曲たちも羊文学の一面だと思って推していきたい。

10. キャロル ~ 13. OOPARTS

このゾーンが TOUR 2022 "OOPARTS" の核だった気がする。

ステージ後方のカーテンが左右に開き、スクリーンには様々な風景や物体が映し出されながら「キャロル」へ。
今回のライブで一番印象が変わった曲だった。正直 "さびがどこだが分からない歌" かのような、ライブならではの展開力を感じた。

「くだらない」は元々大好きな曲だが、塩塚モエカの表情と声にグッとくるものがあった。"聞き飽きたラブソングを僕に歌わせないで" のパートに心が込もっていて、心からの叫びなんだろうなと思った。

その後はまさかの「予感」。イントロの時点で、あれ、本編終わり?と思ったが、弾き語りからバンドサウンドへの様変わりはやっぱり圧巻。スリーピースとは思えない音圧を浴びせてくる。

続く電子音は「OOPARTS」。録音の素材とか使わないフィジカルな演奏が見たかったのになと思っていたら、期待に応えてくれたかのようなライブアレンジで1ヴァース目から3人ともフルスロットルの演奏。
最後は囁くような "逃げる?" で終了。かと思いきやまたバンドサウンドへ舞い戻る。直後のMCで河西ゆりかが言った通り、初見なら誰もが騙される構成だった。

14. パーティーはすぐそこ ~ 17. ワンダー

MCで塩塚モエカが「これだけポップにアレンジしたってできるんだと思えた曲」と称して始まった「パーティーはすぐそこ」。以前の記事でも書いたが、こういうテイストを扱わせても最強なのが羊文学。

続く「マヨイガ」はガラッと変わった包容力の化身のような曲だった。序盤の「光るとき」に繋がる、俯瞰で優しく見守るような、それでいて強く抱きしめてくれるような演奏だった。

定番曲の「あいまいでいいよ」の一音目の爽やかさは、このライブの並びで聴くと際立って聴こえた。とにかく自由に振り切れた演奏。この曲の持つ解放のエネルギーは凄まじい。

本編ラストの「ワンダー」は両手を合わせて祈るように聴いていた。
1曲目の「hopi」では小さな白熱電球だったひかりが、最後にはステージに広がる眩い一筋の光線へと変わっている。等身大から壮大な世界観まで。このスケールの柔軟さが彼女たちの魅力の一つだ。

EN1. 人間だった ~ EN3. 夜を越えて

アンコールの選曲も完璧。
イントロに入る前のセッションは、コードが似ているので初めは有名曲の「1999」かなと勘違いしたが、マイクに近付いた塩塚モエカが放つ「人間だった」の一言で一気にテンションが上がった。

何故なら「人間だった」が自分の羊文学への入り口だったからである。このライブでこの曲を聴けて本当に良かった。

思えばこの曲の世界観は、「OOPARTS」に通ずるものがある。

続くMCでは、一気にふわふわモードの河西ゆりかによるグッズ紹介へ。
あれだけ楽しそうにいろいろ紹介されたら終演後に何か買わずにはいられなくなり、結局ガチャガチャを回してしまった。

「powers」も解放の曲だった。間奏で塩塚モエカがステージ左右に煽りに来たが、これからのライブでもあの "ロックバンドのノリ" をもっとたくさん見たいなと贅沢にも思った。

アンコールラストは「夜を越えて」。
これももはやライブ定番曲だろう。瞬間最大風速ではなく、行進のように一歩一歩進んでいく展開で魅せるこの曲も大好きだ。ライブが終わることを刻一刻と実感しながら、噛みしめるように聴いた。

途中のMCで塩塚モエカは「このツアーが終わったらやらなくなる曲もある」と話していた。それは至極当然なことだし、ファンとしてはどんな方向性も受け入れていきたい。

まずは『our hope』という羊文学の現在地を表す最高傑作の壮大な世界観を生で感じることができたこと、そして『OOPARTS』というテーマの基で昔の作品の中から尖った楽曲も選曲してくれたこと、更には今しか見ることのできない3人の絶妙なバランスをストロボのように切り取れたことで、心から満たされたライブだった。


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