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Inspired by "生活"

というタイトルのプレイリストを作った。

事の発端は2022年12月にリリースされた羊文学の「生活」という曲に感銘を受けたこと。その時に感じた魅力に近しい手触りの曲をポチポチ追加していったらようやくある程度溜まってきたので整理してみた、という経緯だ。

まず羊文学の「生活」についてだが、この曲ほど聴いていて"救われる"と感じる曲は滅多に無い。

率直な心情吐露を通じて、綺麗事を真っ向から否定しながら歌われる"救われなさ"に、自分の生きるリアルな世界との密接な繋がりを感じる。根拠の無い自信に満ちた応援歌よりも、これだけ自己開示して開き直った曲の方がよっぽど信用できるし、救いを感じる。

結局生活なんてポジティブなことだらけではないし、むしろ毎日ストレスを抱えて暮らしていることを考えたら、日常的に目にする風景に紐づくのはどこかアンニュイな感情だ。であればいっそネガティブな雰囲気も味わうことのできる音楽の方が心地良く感じるのかもしれない。

このプレイリストを作るにあたって少し考えたのは音楽における写実性や具体性について。

ポップミュージックで敢えて固有名詞を使ったり日常の風景を描写したりすることで生活感を醸し出す手法は、昔から存在する魅力的な手法だが、諸刃の剣でもある。なぜなら音楽においては、敢えて言葉にされていない余白や、音にもなっていない休符さえ魅力の一つであるからだ。言葉に関しては、特に日本語はハイコンテクストな言語とよく言われるように、敢えて口にしないことの美学が重んじられることもあり、逆にみなまで言ってしまうのは野暮とされることが多い。

極端なことを言うと「コーヒー」とか「ジンジャーエール」とか「ビール」といった単語でさえも、それらを飲んだことのないあるいは飲むことができない人にとっては自分の体験に紐づかない言葉だろう。その単語がもし余白だったら勝手に自分の好きな飲み物を想像できたのに、敢えて言及されてしまったせいで自分に投影できない、なんてことも起こり得る。つまり固有名詞に限らずとも、目に見えるモノについて描写した時点でその作品のスコープは描写された"モノ"を取り巻く情景に絞られる。

更に、日常生活の風景は、当然誰かに見せるためのものではない光景で溢れている。生活必需品とか家電とか、そんな"生活感"に溢れたモノと、アートの世界は本来相反するものである。旅行先の写真をポストするインスタグラマーが自宅の電源コードなんて写真に残さないような、そんな話。

しかし、それでもなお"生活感"のある映画を観たくなることや"生活"にまつわる音楽を聴きたくなることがあるのは、誰かと繋がっていたいからではないだろうか。自分の生活を知っているのは自分だけ。仮に家族や同居人が近くにいたとしても、自分の感情の浮き沈みまでひっくるめた生活は誰にも見えない。些細な出来事に対してふと頭によぎる思考は、全てを口にするわけでもなくただ頭の中にしまわれるだけのこともある。そんな孤独な生活が誰かと重なる瞬間を僅かでも体験できるなら、縋りたくなる。

諸刃の剣と言った通り、表現のスコープを絞ったことで犠牲にする範囲がある一方で、その絞られた領域と重なった瞬間の喜びはとてつもなく大きい。「シャンディガフ私もちょうど今飲んでる!」とか。遠い存在だと思っていた人が意外と自分と近い目線の生活をしていることが分かると、嬉しくなるものである。

また、現実世界の生活感がアートの世界と相反することに変わりはないと思う。厳密に言うとファンタジーの世界だろうか。ミッキーマウスが自宅でDisney+を鑑賞しだしたら、なんか冷める。(逆にあり得そうなメタ描写だが。)
話が逸れたが、そうした非現実的な世界観に浸っているときはやはり"非現実"を楽しみたいものだろう。

だからこそ、現実を味わうしかないときには存分に味わえるように、その気分を使い分けられるように、このプレイリストを作ってみた。

あまりキチッとした全体感があるわけではないが、この曲にはこの曲を繋げたい、この辺で雰囲気変えたい、みたいな意図は持って並べてみた。今のところ冒頭7曲の流れが1番気に入っている。

記事を書きながらまた曲を追加したりしている。一過性のものではなくて、更新しながら生涯そばに置いておきたいなと思っている。


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