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経営組織論と『経営の技法』#323

CHAPTER 12.3.2:古典的組織変革のプロセス ⑦再凍結その1 必要性
 変革を成し遂げるためには、一時的な変化ではなく新しい変革の動きを組織全体に浸透させる必要があります。この段階が再凍結の段階です。変革によって生まれた新しい動きを日常状態にするわけです。組織には組織慣性があります(第8章参照)。そのため、一時的に行動や考え方、あるいは仕事の手順が変わってもしばらくするとまた戻ってしまうことがあります。
 私たちも、自分に身についた習慣というのはなかなか直せません。また、健康に害を及ぼす生活習慣や喫煙などを改めようと、一時的に運動をしたり禁煙をしたりすることはできても、時間が経つと、元の習慣に戻ってしまうことはよくあることです。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』279頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018)】

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村修也・久保利英明・芦原一郎/中央経済社 2019)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 「再凍結」を、リスク対応の観点から考えてみましょう。
 変革によって新しい仕事や、その仕事の仕方が見えてきたときに、それを定着させるということですが、より具体的に言うと各部門や各担当者が担う業務の内容やプロセスについて、その範囲を明確にしたり、プロセスを明確にしたり、さらに言えば社内ルールやマニュアルを定めることが、まず考えられる方法です。
 このように、ノウハウやプロセスを形にすることは、一面で先行して一部の人たちで進められていた変革を一般化し、多くの人に仕事を分担してもらう動きにつながるというメリットがあります。「再凍結」という言葉はこれに近いイメージでしょう。
 他方でこれを急ぎすぎると、ルールやプロセスが十分こなれていない段階で不完全なルールやプロセスを作ることになりかねず、その後の柔軟で現実的な対応やさらなる発展を阻害するリスクもあります。
 そのため、「再凍結」といっても変に固めてしまうことにこだわらず、より多くの人を巻き込んで実際に新しい仕事に関わってもらい、様々な観点から検証しながらその適用範囲や応用可能性を広げていく、という方法が、次に考えられる方法です。
 つまり、「再凍結」を、意思決定後の実行のプロセスと位置付けるよりも、むしろ意思決定のプロセスに位置付けて一緒に実験しながら適用範囲や対象を広げたり、PDCAサイクルを回す仲間を広げたりする、という位置づけで考えるのです。「再凍結」という言葉のプラス面(すそ野を広げる)を活かしつつ、そのマイナス面(融通が利かない)をできるだけ小さくする、という工夫を考えましょう。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 投資家である株主から投資対象である経営者を見た場合、変革期の経営者に期待される資質としては、前回まで見たように変革の流れやムーブメントを起こすだけでなく、それを一過性のものに終わらせず安定稼働の状態にする資質も必要である、ということになります。
 すなわち、変革のときにはお祭りのような熱気が必要となりますが、いつまでも浮かれていてはダメで落ち着いて業務を立て直し、定着させるという地道な作業が必要です。もちろん、分担する役割に応じてその内容やタイミングがずれてきますが、会社組織を人体に例えて考えると、マラソンのように常に走り続けるような競技もありますが、球技や格闘技のように冷静に体調を整えるべき場面もあります。そのようなフェーズの切り替えを適切に行い、従業員の意識の切り替えを徹底させることも、リーダーシップの一部となるのです。

3.おわりに
 定着させるべきことは、仕事の内容やプロセスだけでなく、むしろその背景にある意識や社風も重要となります。多くの場合、業務の変革は仕事に取り組む意識や社風~根本的に変革すべき場合が多いでしょうから、そのような根本的な部分からの定着ができたかどうか、という視点が「再凍結」の際に重要になると思われます。

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。


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