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経営組織論と『経営の技法』#311

CHAPTER 12.2:組織のライフサイクル ⑨精巧化段階
 こうして、組織は最後の段階である精巧化段階に入っていきます。この段階になると規模もこれ以上大きくなりようのないものになり、まさしく大企業になります。この時期の危機は活性化の必要性です。これ以上の規模的な成長がなかなか望めない状況において、組織はまさしく成熟期に入り、大きすぎるがゆえに、そして安定しているがゆえに、環境の変化などへの対応が素早くできなくなっていきます。そのため、トップの交代をはじめとして、組織の活性化を促していくことが求められてきます。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』273頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018)】

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村修也・久保利英明・芦原一郎/中央経済社 2019)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 大きくて安定していると、環境変化への対応を素早くやれなくなる、ということが上記本文で指摘されています。そして、この状況を改善するのは組織の活性化、と指摘されています。
 このような分析がされるのは、多少プロセスが重くても、組織が活性化されていてコミュニケーションが活発であれば、手続もスムーズに進む、ということでしょうか。趣旨の分かりにくい書類が回ってきたときに、意味不明と突き返して手続きのやり直しになる場合と、気軽に本人のところに出向いて意味を確認して手続きを進める場合では、意思決定にかかる時間が大幅に違ってきます。
 ここで最大の原因としてイメージされるのが、いわゆるセクショナリズムでしょう。部門相互のコミュニケーションが止まってしまえば、このような事態が生じやすくなるからです。
 逆に、セクショナリズムを解消し、コミュニケーションを活発にする方法として上記本文ではトップの交代が紹介されています。たしかに、トップが交代すると玉突き的に人事異動が発生する(下からトップが選ばれた場合)でしょうから、その範囲で組織内が刺激されますが、それ以上の活性化は新しいトップによる新しい政策次第となります。
 さらに、人事だけで組織を刺激するとすれば、従業員の移動や担当業務の変更でしょう。チームに新しい人が来ると、その人に新しく仕事を覚えてもらい、他部門と新たに仕事のやり取りの仕方を見直したりすることになりますし、コミュニケーションがうまくいかなかった他部門との関係が変わるかもしれません。特にジェネラリストを重視する日本の伝統的な長期雇用型の会社では、人事異動が定期的に行われるのはこのような理由があります。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 投資家である株主から投資対象である経営者を見た場合、会社組織を活性化させるために投資家を交代させる方法があることになります。
 もっとも、「所有と経営の分離」のための株式会社で、投資家が自ら会社組織の活性化のために手を突っ込むことが適切かどうか、という問題が生じます。会社組織が投資対象である経営者によるビジネスのツールであることを考えると、会社組織を活性化させることも含めて経営者の責任の所在を明確にするために、株主は手を突っ込まない方が良い(経営者の言い訳材料となる)でしょう。

3.おわりに
 さらによく見かけるのが、事業分割や事業本部制、カンパニー制導入、など組織を小さくする方法、プロセスを見直して「重い」プロセスを「軽く」する方法(前回#310)、従業員のやる気を高め、それぞれが活発に動き回るようにする方法、などがあります。

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。


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