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松下幸之助と『経営の技法』#244

10/16 知ってもらう

~世間に正しい姿を知ってもらう。真実をありのままに知ってもらう。~

 日頃から、企業の考えていることなり、業績、製品などについて、世間に正しい姿を知ってもらうことが大切であろう。いわゆる広報活動なり宣伝広告などはそのために行うものである。
 その場合にも、いわゆる誇大広告のごとく、自らの姿を実態以上に見せようとすることは厳に慎まなくてはならないことはいうまでもない。そういうことで、仮に一時的には世間の目をあざむけても、結局は大衆は真実の姿を見抜き、その結果かえって信用を落とすことになってしまうだろう。
 リンカーンは「すべての人を一時的にだますことはできるし、一部の人をいつまでもだましておくこともできる。しかし、すべての人をいつまでもだまし続けることはできない」と言っているという。彼は政治家としてそういうことを言ったのだろうが、経営についても全くその通りである。真実をありのままに知ってもらうということが、長い目で見ていちばん大切なことなのである。
(出典:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

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1.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 労働法の専門家を長くしていると、労働法のリスクは、「言っていること」と「やっていること」のギャップが大きいほど大きくなる、と感じます。偽装派遣、偽装店長、サービス残業、退職部屋、などなど。このような場合には、会社が建前として主張する人事権の行使が、実は気に入らない従業員に対して不利益を与えるものである、というギャップが裁判所によって認定され、かえって会社にとって不利な事情として斟酌されてしまうのです。
 従業員は、上司や経営者の言動を実に注意深く観察し、何かとそれについて意見交換しながら、観察した内容を検証しています。その状況では、多少の嘘などすぐに見抜かれますが、問題は何か隠したことそれ自体だけでなく、そのようにして信頼してくれていない、本当はもっとひどい事実が隠されているのではないか、という疑心暗鬼につながってしまう危険です。
 仮に良かれと思ったこと(例えば、ショックな話を聞かせたくない、心配をかけるよりも何も知らせずに安心したまま働いて欲しい、という親切心からの隠し事)であっても、それがバレてしまえば(そして、大概バレます)、心理的に反感を持たれるだけでなく、それ以上の不都合な真実や悪意が隠されていると疑ってしまうのです。
 もちろん、経営に関する事項は、経営戦略や財務状況、人事政策など、簡単に従業員に開示できないことが多いでしょう。
 けれども、本当のことを知ってもらった方が賛同を得られ、求心力の上がる場合も多いことを十分理解し、秘密主義とは違う手法も使いこなせるように、その懐を深くすることも検討しましょう。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 経営者の発言の方向が、社内ばかりでないことは、昨日(10/15の#243)と同じです。外に向かう場合(上図だと、横方向)や、株主に向かう場合(上図だと、上方向)もあります。
 いずれも、相手の信頼を得た方が段残好ましい、という意味で共通します。
 もちろん、それぞれの立場や関係性が異なりますので、アプローチや、オープンにできることは異なってきますが、ここでも、秘密主義とは違う手法は有効です。

3.おわりに
 近時は、情報の開示も進み、さらに市場が求める以上の情報開示も、ディスクロージャーなどの名目で積極的に行われるようになってきました。企業が、よき社会市民であろうとする意欲は、最近特に強くなっているように思われます。
 その動きは、もちろん、開示に積極的な会社が社会に受け入れられ、評価され、イメージが上がっている、という積極的な側面もありますが、他方で、近時多発している各種偽装事件(食品、素材、製品など)と、それによって経営危機に直面した事例も多く発生している現状、という消極的な側面もあるでしょう。名門企業の経営者が、弁明の記者会見で吊し上げにあっている状況を見て、その場で慌てて積極的な情報開示をしても手遅れになっている様子が感じられれば、事前の積極的な開示の重要性は、嫌でも理解できるはずです。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出典を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。

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