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経営組織論と『経営の技法』#225

CHAPTER 9.4:偶然を生かすキャリア ①計画された偶発性
 さてここまで、自分のキャリアのよりどころを考えること、あるいはキャリアの段階による課題を認識すること、これらのことから良いキャリアを歩むこと、良い仕事上の成長を果たすことを考えてきました。しかし、実際の仕事人生は自分の思ったとおりには進みません。特に組織の中でキャリアを歩む場合には、組織の要請は異動という形で、時に唐突にキャリアの変更を求めてくることがあります。
 また、仕事生活の中ではさまざまな偶然が自分のキャリアに影響を与えることがあります。たとえば、プロスポーツの世界では、レギュラー選手がケガをしたために急遺抜擢された選手が活躍してそのままレギュラーになることは珍しくありません。
 天皇の料理番と呼ばれ、日本の西洋料理の普及に献身した秋山徳蔵は、たまたま食べたカツレツに感動したことから西洋料理の料理人になることを決めたといいます。もし秋山がそのときにカツレツを食べなければ、彼は料理の世界には足を踏み入れなかったかもしれません。
 このようにキャリアは、さまざまな偶然に彩られているとも考えることができます。そして、良き偶然を捉えることで自身を良い方向へと成長させ、良きキャリアを歩むことを可能にすると考えることもできます。しかし、どのようにしてその良き偶然を得ればよいのでしょうか。
 良き偶然を得るためには、ただ待っているだけではなく、良いキャリアにつながる偶然を起こすことが重要になります。これを計画された偶発性と呼びます。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』213~214頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018)】

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村修也・久保利英明・芦原一郎/中央経済社 2019)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 これまで、計画的にキャリアアップを図る面が検討されてきましたが、ここからは、計画的ではない方法が議論の中心となります。
 これは、従業員の側から重要なだけでなく、会社の側からも重要です。
 というのも、世の中の全てのビジネスマンが計画的なキャリアしか受け入れないのであれば、中途採用で即戦力を雇うことなど不可能となってしまうからです。そもそも労働市場は、転職しようとする人がいるから成立しますが、転職の全てが計画通りではなく、むしろその多くは、市場という場での偶然の巡り合わせです。自分の予定通りの条件に簡単に巡り合えませんから、違う言い方をすると、計画していたキャリアと現実との妥協ができなければ、よほどのことが無い限り転職などできなくなってしまうはずです。
 つまり、会社の側が必要な人材を確保するためには、さらに言えば労働市場が機能するためには、このような偶然によるキャリア変更が必要なのです。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 投資家である株主から経営者を見た場合、経営者は会社組織をツールに、「適切に」「儲ける」ことがミッションですから、会社組織を常に磨き上げていかなければなりません。市場での競争をスポーツ競技とたとえれば、会社組織を作り上げることは、競技に合った体を作り上げることになります。
 そのため、会社組織を強化したり、退職者の穴を埋めたりするための人材の確保にも、会社経営者の手腕が求められます。ここでの、偶然によるキャリアを魅力的に示すことも、会社の経営戦略として重要となります。

3.おわりに
 私自身のキャリアを振り返っても、この偶然のキャリア変更は、非常に重要です。というよりも、こちらの方が普通ではないか、と思ってしまうほどです。

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。


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