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経営組織論と『経営の技法』#211

CHAPTER 9.2.2:キャリアアンカー ⑥起業家的創造性
 5つ目は、起業家的創造性と呼ばれるキャリアアンカーです。新しい製品やサービスを開発したりというように新しい事業を起こす欲求が高い人です。起業家というと自律的で独立心が旺盛なイメージがありますが、とにかく新しいことを試してみたいという欲求があります。多くの起業家にはビジネスで大きな成功を収めても、また新しいビジネスを始める人がいるように、起業家的創造性をキャリアアンカーに持つ人は、創造する欲求が強いが飽きっぽく、休みなく新しい創造に挑戦し続けることを求めます。企業組織の中でも、新業態や新規事業あるいは新しい店舗の立ち上げなどを多くキャリアの中で担当する人がいますが、望んでそのような仕事に就く人は、このようなキャリアアンカーを持つ人かもしれません。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』206~207頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018.2.1)】

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村修也・久保利英明・芦原一郎/中央経済社 2019)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 前回(#210)で検討した保障と安定にキャリアアンカーがあるタイプと、リスク管理の観点から見ると、逆です。保障と安定のタイプは、リスクを取りたくない、というタイプでしたが、この起業家的創造性のタイプは、リスクを取りたい、というタイプだからです。
 会社組織として見た場合、このタイプの従業員が1人でリスクを取れるわけではありませんから、リスクを上手にコントロールして、チャレンジできる環境を作る(お膳立てする)ためのサポートが必要となります。たとえば、部下にこのタイプの従業員がいる場合には、上司が上手にリスクコントロールするためのサポートを手当てするなどの対応が必要でしょうし、部門のリーダーがこのタイプの場合には、その部門のメンバーや、他部門が、お膳立てをしなければなりません。
 さらに、起業に慣れてくると、お膳立てに何が必要か自分一人でも分かってくるようになるでしょうから、周囲がサポートする、というよりも、周囲を巻き込んで、周囲に自分のやりたいことをお膳立てさせるようになるかもしれません。そこまでいけば、立派な経営者です。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 投資家である株主から経営者を見た場合、経営者はリスクを取ってチャレンジし、競争で打ち勝って利益を上げるのが仕事ですから、このタイプは経営者にとって最も重要な部分が備わっています。
 けれども、投資家の負託に応えるためには、それだけでは不十分です。
 というのも、株主は一発勝負で投資しているのではなく、配当によって息長く投資を回収していく場合が多い(もちろん、株式を頻繁に売り買いし、売却益を狙う場合もありますが)からです。この場合、たとえば年利5%の配当であれば、単純計算で20年かけて元本を回収します。逆に言うと、経営者は20年間配当し続ける必要があり、すなわち、市場での競争で20年以上勝ち続けなければならないのです。
 すなわち、飽きっぽい点が、この場合弱点になります。
 また、会社経営をスポーツに例えると、市場での競争が、競技での競争になりますが、経営者は単に競技の技を磨くだけでなく、より良い成果が出せるように、スポーツ選手としての体を作らなければなりません。それが、会社の組織作りです。
 すなわち、このタイプは、新しい競技を器用にこなすことが上手なようですが、腰を落ち着けてトレーニングを積み重ね、食事に注意し、体づくりをしながら成績を上げていく、ということができるようになれば、会社組織を率いる経営者として、より完璧となるのです。

3.おわりに
 実際に、ベンチャー企業でも、ビジネスを立ち上げた創業者が早々に引退し、ビジネスを組織化する過程では別の経営者にバトンタッチされる事例が多く見かけられます。それは、上場して株を売却したり、M&Aで会社ごと売却したりして、事業として一定の評価がされた段階で手放してしまう、という形で、一定のプロセスができつつある領域でもあります。
 上記2のように、自らがそのまま経営者になる場合と、起業家であり続ける場合と、このタイプのキャリアにとって大きな選択肢が2つ、できつつあると思われます。

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。


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