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松下幸之助と『経営の技法』#251

10/23 自分の店舗と街の品位

~自分の店は、自分のものであると同時に、自分が住む環境の一部をなすものである。~

 自分のお店を常にきれいにし、お客様が入りやすいよう、また商品が見やすいようにすることは、商売を発展させていくために、非常に大事なことの1つだと思います。ただ、そのように店舗をきれいにするということについては、単にお客様の購買意欲を高めるためということだけではなく、より一段高い理由からも、大いに力を入れる必要があると思います。
 その理由とはどういうことかといいますと、自分の店舗は、自分の商売のためのものであると同時に、自分の街の一部を成すものである。だから、自分の店舗のあり方は、その街の美醜にも大きな影響を与えるということなのです。1つの街に好ましい店舗ばかりが並んでいれば、その街は、生き生きと活気に満ちた綺麗な街になります。街全体に好ましい環境が生まれます。
 したがって私たちは、そうした街を美化するというか、街の品位を高めるという一段高い見地からも、自分の店舗をきれいにしていくことが大事だと思うのです。それは“社会の役に立つ”という商売の真の使命に基づく1つの尊い義務ともいえましょう。またそれは同時に商売の繁栄にも結びつくものだと思います。
(出典:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

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1.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 まず、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 ここで注目されるのは、「社会の役に立つ」ことが「商売の真の使命」とする点、そのうちの1つが店を綺麗にし、街を活気づかせることですが、それによって「同時に商売の繁栄にも結びつく」とする点です。
 今でこそ、企業の社会的責任に関する様々な言葉が飛び交い、社会に非難された会社(食品・素材・製品などの品質偽装した会社など)が経営危機に瀕してしまう時代です。社会的責任を自覚し、実践できない会社が競争を生き残れないことは、もはや常識です。
 けれども、松下幸之助氏は、会社の創業後、かなり初期の段階から「社会の役に立つ」ことの重要性を認識し、経営の基本としてきました。たしかに、日本古来の商道徳に関する諺には、「三方良し」「お天道様が見ている」「情けは人の為ならず」など、会社と社会の関係に関する言葉が多くあります。その言葉を信じて商売を続けた、という意味では、どこか古風なところがあります。
 しかし、合理主義者である松下幸之助氏が、道徳的な義務感だけで経営を続けたわけがありません。そのことが「儲け」につながるからこそ、この考えを捨てずに大事に守り通してきたはずです。実際ここでも、「同時に商売の繁栄にも結び付く」と言っているように、実にちゃっかりとしているのです。
 消費者の行動分析や、会社が取引先を選ぶ際の選考基準などから、企業の社会的責任に対する取り組みは、これまで以上に重要になることはあっても、軽くなることはないでしょう。これほど重要で、一般的になる問題に、いち早く取り組み、実感し、信念と言えるまで取り組んでいた点が、経営者の資質として、特に抜きんでたところではないでしょうか。

2.内部統制(下の正三角形)の問題
 次に、社長が率いる会社の内部の問題を考えましょう。
 ここでは、商店街の個人商店主が聴衆なのでしょうか。店を綺麗にするのが誰なのか、特に明確にしておらず、店主自ら取り組むべき課題、という表現のように思われます。
 けれども、会社の場合には、会社組織は経営者のミッションを果たすべきツールです。経営者の考えを理解して実践させることが、内部統制であり、経営そのものです すなわち、経営者は従業員に対し、単にお金を儲けるだけでなく、社会貢献することの重要性を日頃から教育し、そのような社風を作るための活動を行い、人事考課などでもその点を考慮するなど、様々な施策でこれを会社の実際の活動に取り込まなければなりません。
 会社の広報で、社会に配慮している、等と綺麗事を言うだけで実践が伴わなければ、逆に馬鹿にされますから、会社全体にも言動一致させることが、経営者として重要です。

3.おわりに
 松下電器は、地域の家電販売店のネットワークでも有名でした。ここで、松下電器のお店が、それぞれの地域で欠かせないお店になり、頼られる存在になっていけば、松下電器自体の評価も上がっていきます。お互いに持ちつ持たれつの関係ですから、当然、このことも考えていたはずです。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出典を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。

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