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松下幸之助と『経営の技法』#191

8/24 会社の分に応じた人材

~人材は優秀すぎても困ることがある。会社の分に応じた人材がいいのである。~

 私の経験からいうのであるが、人は、その会社にふさわしい状態において集めるべきだと思う。あまり優秀すぎても、時として困ることがある。こんなつまらん会社がと思われるより、この会社は結構いい会社じゃないかといって働いてくれる人のほうがありがたい。分に応じた会社に、分に応じた人材ということでいいのであって、あまり優秀すぎる人を集めすぎても、かえってよくない場合があることを心したいものである。
(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 ここでの話題は、いわゆる「オーバークオリティー」の問題です。
 実力を持て余す従業員がいるとどうなるでしょうか。①他人の低能ぶりに不満を持つ→他人に厳しく当たる、他人に対する不満が態度で現れる、等→職場がギスギスする、②他人より要領よく仕事を処理する→手抜きしていると疑われる、見せつけていると妬まれる、(上司)自分の立場が危ういと危機感を抱き、この従業員に反感を抱く、等→職場がギスギスする、③ストレスを自分のうちに溜めこむ→元気が失くなる→周囲の雰囲気も暗くなる、などの状況が懸念されます。
 これに加えて、最も問題になると思われるのが、④経営モデルとの関係です。
 松下幸之助氏は、ワンマン会社やベンチャー企業とは異なり、従業員の自主性や多様性を重視し、従業員にどんどん権限移譲します。
 そうすると、優秀な従業員であれば、権限移譲するのにちょうど都合が良いのではないか、と思われるかもしれません。特に、上記①~③のようなコミュニケーションに関わるトラブルが発生せず、優秀な従業員が職場に上手に馴染んでくれれば、この人こそ次世代のリーダーになってくれると期待できそうです。、
 けれども、優秀な従業員が職場に馴染んだ場合、それはそれで違った問題が発生します。
 それは、周囲がこの従業員を頼り過ぎたり、競争を諦めたりして、この従業員以外の者が育たなくなる状況です。この従業員だけが成長すれば、バランスが崩れた状況が作り出され、従業員の自主性や多様性がかえって損なわれかねないのです。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、松下幸之助氏から経営者の素養として学べることは、身の丈に合った経営をする能力でしょう。やはり、優秀な人材が欲しいと思うのが当然ですし、優秀な人材が増えれば、こんなことやあんなこともできるだろう、と夢が膨らむのが当然です。
 けれども、従業員全体のバランスを考え、バランスよく会社が成長していくことのために、敢えて優秀すぎる人材を採用しない、という判断は、単に謙虚であるというだけの問題ではなく、むしろ客観的な観察と冷静な判断に基づくものです。本当に困っている優秀な人材が就職したいと頼んできた場合でも、君は優秀すぎるから、と断る様子が想像されるのです。
 したがって、株主として経営者を選ぶ場合には、向上心があることは良いのですが、だからと言って背伸びした経営をしないような、客観的に観察し、冷静に判断できる経営者かどうかを見極めるのも、1つのポイントになるでしょう。

3.おわりに
 運動会の騎馬戦で、馬となる3名の身長を揃えますが、それは、バランスが悪い馬になると、騎手も傾いた格好となり、充分に力が発揮できないからです。会社が組織として機能するのは、その中にあるチームがそれぞれチームとして機能することが大事であり、突出した人がいると、そのバランスが崩れかねないのです。
 これは、組織の輪を重んじる日本的な発想ですが、その背景にあるこのような事情を理解しておくことで、チーム作りをする時の参考にしましょう。このような「和」を重んじる方向とは逆に、突出した人材をチームリーダーとして育てる、という発想もあり得るでしょうが、その際に注意すべき点は、それに失敗したことのある先人の経験から学べるのです。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。


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