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経営組織論と『経営の技法』#303

CHAPTER 12.2:組織のライフサイクル ①意味
 まず、意図しない組織の変化について考えます。すでに述べたように、組織は活動を行うにつれ規模が大きくなっていくことがあります。もちろん、勝手に規模が大きくなるわけではありませんから、規模の拡大そのものは意図したものということができます。
 この「意図しない」とは、「変化そのものを意図しない」ということを意味します。経営組織が事業で成功していけば 、より大きな付加価値を生み出そうとして徐々にその規模を大きくしていきます。典型的には、多くの従業員を雇い、規模が大きくなっていくことが挙げられます。このような規模の変化は、組織にも変化を及ぼします。このような変化は、組織のライフサイクルとして捉えることができます。つまり、組織が生まれ、成長し、衰退するまでのプロセスというわけです。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』269~270頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018)】

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村修也・久保利英明・芦原一郎/中央経済社 2019)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 ここでは、以前#300で検討した問題、つまり「意図しない」で組織が大きくなることの意味について説明されています。組織拡大に伴い、特に人事的に対応すべき問題が沢山発生しますから、会社が組織拡大に対して全て受け身であると簡単にくくれません。
 この意味で、組織が大きくなっていくという自律的な動きと、会社組織に関する業務として特に人事業務を中心に積極的な業務も含め多様な業務が発生するということは、排他的な関係ではなく、むしろ前者が後者を当然の前提にしている、という意味で積極的な関係のあることが確認されます。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 すなわち、投資家である株主から投資対象である経営者を見た場合、組織マネジメントを任せる面だけ見ると、組織を全て自分で動かそうとするのではなく、組織の自律的な活動に対して理解し、ある程度それに任せてしまう面も、経営者には求められることと言えるでしょう。

3.おわりに
 たしかに、例えば100年以上も事業を継続している企業があり、しかも日本は100年以上も事業を継続している企業の数が先進国で一番多いと言われています。このことを考えると、会社にはライフサイクルという考えは当てはまらず、むしろそれを克服する長寿の秘薬があるはず、と考えてしまうかもしれません。実際、「所有と経営の分離」を形にした株式会社制度は、人類の最大の発明の1つと言われるほど重要なもので、所有者である株主の人生の長さを超えた事業主体を生み出しました。
 けれども、原則と例外を冷静に見極めましょう。
 人間の命の長さを超える事業主体を作ることが技術的に可能になったとしても、それが常に実現されるわけではありません。そこでは、経営者の能力や資質だけでなく、その競争分野である事業分野自身の社会的必要性や重要性、持続性が一方で問題になり、他方で会社組織が永続的な存続に対応できる組織かどうかという経営組織論的な問題もあります。
 このように見れば、社会的な器として100年を超える企業を作り得る器が存在しています(株式会社制度)が、それを経営者が本当に生かしきれるかどうかを見極めるために、通常の能力の経営者が会社経営した場合の会社の寿命やライフサイクルを見極めておくことも重要です。現状、どうなっているのかが分からなければ、理想論としてそれをどこまで活用できるのかを見極められないからです。

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。


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