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松下幸之助と『経営の技法』#228

9/30 事業に頂上などない

~すべての事業に頂上など存在しない。それぞれの立場で考えるべきことは限りない。~

 世の中は動いているのだから、1日1日、考えが進んでいかなければならない。従業員が10人いる時、その10人いる時の考えに執着するのでなく、15人になることも考えていく。今月は売上げが1000万円だけれども、来月1500万円売るにはどうしたらいいか、そのように、経営者は絶えず求めるものをもたないといけない。経営というものは、言ってみれば終わりのない壁画を描き続けるようなものだから、常にそういう希望をもっていなければならないと思う。
 すべての事業には、ここが頂上で、これでおしまいなどというものはない。だから私は、今でもこうしなければいかん、ああしなければいかんということを考えている。相談役ではあるけれども、調整役という立場に立って、それなりに事業のよりよき姿を考え続けているのである。
(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

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1.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 ここで松下幸之助氏は、経営者が常に「事業のよりよき姿を考え続け」るべきであると説いています。そして、この「よりよき姿」には、①会社を大きくして収益を増やす方向(頂上という言葉や、従業員数、売り上げなどが例示されている)と、②世の中の動きに合わせていく方向(世の中は動いているのだから、という表現)が含まれます。
 つまり、経営者は、会社を常に変化させていかなければならない、ということになります。
 これは、リスク管理の観点から見ればPDCAサイクルや、監査指摘とそれへの対応です。また、経営の観点から見れば、カイゼン活動、QC活動、シックスシグマ等につながるほか、通常の経営活動そのもの(決算による経営の振り返り、経営会議などでの会社の活動状況の検証など)でもあります。
 さらに、「事業のよりよき姿」という表現から、単に数字を追い求めるだけでなく、会社の組織体制や、さらに根本的に経営理念、ポリシーのようなものまで含めて、見直しが必要ということが読み取れます。つまり、市場での競争力を高めたり、環境変化に適合するための見直しも含まれます。具体的には、例えば市場での競争のため、顧客のニーズに沿った新しい製品を開発投入するために、それに適した組織体制に改めたり、地球環境に対する配慮がより強く求められることから、環境に配慮した製造プロセスのための投資をしたり、ということが求められます。
 ともすると、組織は成功体験に基づいて安定した状態を好み、変化に対して消極的になってしまいます。なぜわざわざ変えなければならないのか、変える必要性と合理性を証明しろ、というロジックです。
 けれども、経営面にしろ、リスク管理面にしろ、外的環境に対応できず、例えば急に寒くなったのに薄着で街中に出て、雨にでも濡れてしまえば、風邪をひいてしまうように、会社に重大な影響が与えられます。そうならないように、変化を嫌う会社組織の現場を動かし、常に変化させ続けることが、経営者にとって必要なのです。
 もちろん、変えなければならないのかどうか、どのように変えるのか、について全て経営者一人で判断できるわけではなく、情報収集や方向性の検討を、上手に従業員にやらせることも必要ですが、そのような仕事の配分や動機づけが必要です。さらに、このようにして集まった情報やアイディアに基づく決断について、最終的に責任を負うのは経営者です。
 会社組織には、そのような動きを組み込まなければならないのです。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、経営者を選ぶ際に参考にすべき経営者の資質を、ここまでの検討の中から読み取りましょう。
 すると、経営者は、一方で組織を安定させ、従業員たちに安心して仕事に取組み、その能力を最大限発揮できるようにする能力が必要であり、他方で必要な変化を、怠らずに常に生じさせていく能力も必要である、ということがわかります。経営スタイルとして見ると、前者が調整型で後者が変革型になりますが、実際はこの両者のいずれか一方ではなく、ブレンドの問題であることがわかります。
 つまり、経営者には、この両者を組織として実現させる能力と、そのバランスを取る能力が必要である、ということがわかるのです。

3.おわりに
 経営者が安定志向であっても、従業員が活発にアイディアを提案していけば、会社を変えることができる、と言うかもしれません。
 けれども、会社全体のベクトルを合わせて、組織全体を一定の方向に動かすことについての判断をするのは経営者です。実際に動かすのは経営者ではなく、そこから権限移譲された役員や従業員であり、彼らに率いられるチームですが、全体の動きについて責任のある者が、その方向性を決めない限り、組織は動けません。
 その意味で、経営者と従業員の掛け合いのようなものも重要となってきます。
 松下幸之助氏が「調整役」と称する仕事には、このような掛け合いを促進させる触媒のような役割があるのかもしれません。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。

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