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経営の技法 #19

2-8 ガバナンス不全の背景②
 ガバナンス(上の逆三角形)には、株主と社外役員のほかにも、公認会計士や社外委員会などの社外機関も関わるが、社外機関の不全が原因となる不祥事も報告されている。

2つの会社組織論の図

<解説>
1.概要
 ここでは、ガバナンス(上の逆三角形)が機能していない場合について、前のトピック(同書2-7、当ブログ#18)と2回に分けて、具体的な事例をあげて、その原因を分析しています。
 すなわち、いずれも中立性客観性が期待される立場にありながら、公認会計士(不祥事の具体例は、大王製紙事件とオリンパス事件)や第三者委員会(具体例は、オリンパス事件)が企業不祥事の原因となっています。
 そして、これらに共通する原因として、「インセンティブのねじれ」が指摘されています。これは、チェックを受ける側が、チェックする側に報酬を支払っている状態のことで、法的には「利益相反」「コンフリクト」に該当します。
 特に欧米では、どんなに優秀な人でも、報酬を支払ってくれる人の問題点を指摘することは簡単にできるものではない、したがって、チェックを受ける人が報酬を支払うような構造自体が、チェックの信頼性を否定する、と考えます。それでも、客観性中立性を保てるプロがいるはずだ、という日本的な発想は、現実を直視していないお人好しな楽観主義でしかありません。公認会計士の報酬について、監査役会や監査委員会が決めるのではなく「同意」にとどまること、第三者委員会については全くルールも工夫もなく、経営側が報酬を決めるのが普通であること、を考えれば、これらの機関の信頼性が国際的に認められることはあり得ないでしょう。

2.信頼を得る方法
 残念ながら、日本の「公認会計士」「第三者委員会」は、国際的に信頼を得る状況にありません。上記の構造的な問題がネックとなります。
 この構造的な不信感を克服し、会社経営の信頼を得る方法は、根本的には構造的な対策しかあり得ません。根本的な原因が構造的な問題である以上、それ以外の方法は、全て小手先の弥縫策でしかないのです。
 だからといって、全ての会社でこれまでの組織体制や運用を一挙に変更することができるわけでもありません。
 これらの機関の活動の実績から信頼を高めつつ、徐々にあるべき体制に修正していく、というプロセスが、より現実的な対策でしょう。

3.おわりに
 法制度も含めた制度設計のお話です。
 日本は、どうも中庸から議論が始まるようです。そんなに悪い人はいないから、という同じ日本人に対する信頼も影響しているでしょう(「性悪説とロイヤルティ」(同書4-3))。
 けれども、今後の状況変化を考えると、単一民族の暗黙了解をあてにするような体制やプロセスは、認められなくなってきます。

※ 『経営の技法』に関し、書籍に書かれていないことを中心に、お話していきます。
経営の技法:久保利英明・野村修也・芦原一郎/中央経済社/2019年1月



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