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経営組織論と『経営の技法』#88

CHAPTER 4.2.1:ライン権限とスタッフ権限
 もう少し権限の話を詳しくしていきます。組織における権限には、大きく分けてライン権限とスタッフ権限の2つがあります。
 ライン権限とはここまで話してきたような、上位層に与えられる、下位層の仕事を管理する権限のことを指します。「部長→課長→係長→主任→平社員」というような権限関係は典型的なライン権限の関係です。
 このときに重要なことは、指示命令関係が一元化していることです。ある人が、2人の上司から指示命令を受ける関係にあることは、指示命令が矛盾した際に問題が起こるため、原則としてライン関係において命令は統一されることが必要です。
 一方、スタッフ権限とは、一定の職位から他の職位に対して、命令や指揮する権限ではなく、助言とサービスを提供する権限を持つ場合を指します。たとえば、企業組織にある人事部や経理部は、ラインが効果的に仕事を行うことができるように支援や助言を行うのが大きな役割です。
 2つの権限について、例を挙げながら考えていきましょう。お弁当を作り、販売する組織を作るとします。そのために、まずお弁当を作るライン関係を考える必要があります。たとえば、社長の下に調理部門、その下に下ごしらえ担当、調理担当、盛り付け担当、の主任を置き、その下にさらに個別の仕事が割り当てられます。調理部門の長は3人の主任に指示を出し、主任はそれを受け、自分の部下に仕事を割り当てていきます(図 4-1)。
(図4-1)スタッフ部門とライン部門

図4-1

 一方、販売部門も同様に考える必要があります。社長の下に販売部門が置かれ、たとえば駅売り担当、スーパーマーケット担当、仕出し担当といったように主任が割り当てられ、さらにその下に個別の仕事が割り当てられるように組織は作られます。
 この2つのライン関係が、この組織の中心的な権限関係、ライン権限となります。もちろん、前節の部門化を踏まえれば、駅売り担当部長とスーパー担当部長、仕出し担当部長として、その下にそれぞれ、調理と販売の主任を置くこともできるでしょう。このライン関係の仕事をより効率良くするためには、給与計算や人材の確保、あるいは食材や弁当箱などの包装材の購入などの仕事が必要になります。これらは、調理、販売に指示や命令は出す権限はありませんが、それぞれの部門の活動を効率良く進めるために必要な知識やサービスを提供します 。なぜなら、このような調理や販売とは直接的に関係のない職務をそれぞれの部門の人々に行ってもらうことは、分業による専門性の向上を妨げることになるからです。これがス タッフ権限となります。
 それぞれの職能の部門が最大限に知識や技能を発揮するために、組織がある一定の規模になれば、さまざまな情報の処理の負荷を軽減するためにスタッフ部門が必要となるのです。このような観点で作られる組織を、ラインアンドスタッフ組織と呼びます。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』77~79頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018.2.1)】

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村修也・久保利英明・芦原一郎/中央経済社 2019.2.1)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
#85で 、法務部の業務に関し、工程別部門の一部門と位置付ける会社もあるが、そうではなく全社をサポートする部門と位置付ける必要がある、と説明しましたが、このことを、ここの本文での議論に当てはめると、法務部を工程別部門の一部門と位置付けるのは、法務部をライン部門と性格づけることであり、全社をサポートする部門と位置付けるのは、法務部をスタッフ部門と性格づけること、といえるでしょう。
 リスク管理の観点から見た場合、どこか特定の部門だけがリスク管理に携わるのではなく、たとえば原材料の品質について、調達担当部門の担当者が違和感に気づく必要がある(リスクセンサー機能)など、ライン部門が担う場面があります。他方、会社全体のリスク状況を管理するリスク統括部門を設けたり、たとえば法的で特殊なリスク(独禁法や外為法などの専門性の高い分野)のコントロールをサポートする法務部を設けたりする場合には、上記のとおりスタッフ部門ということになります。
 このように、リスク管理についても、ライン部門とスタッフ部門で機能的に役割分担することが必要です。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 リスク管理のために、ライン部門とスタッフ部門に適切に仕事を割り振ることは、基本的には経営事項であり、所有者である株主が口を出す問題ではありません。
 ただし、内部監査部門が、株主総会の下部機関となる監査役・社外取締役・独立取締役をレポートライン先に置く場合も、欧米の会社には見られる例であることは、以前#82で検討したことです。この場合の内部監査部門も、ラインが明確に存在することから、ライン部門と性格づけできるかもしれませんが、業務内容は会社全般の運営に関わりますので、業務内容から見ればスタッフ部門と性格づけできそうです。

3.おわりに
 リスク管理の観点から見た場合、会社全体に関わる問題か、現場に関わる問題か、に整理することは重要ですから、スタッフ部門とライン部門の概念は有用です。

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。


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