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経営組織論と『経営の技法』#192

CHAPTER 8.4:組織エコロジー論 ④信頼性と説明責任
 この組織慣性の根本には、組織の持つ信頼性と説明責任の能力が影響しています。信頼性とは、組織が一定の品質を繰り返し生産できる能力を指し、説明責任とは、組織が自分の活動を合理的に説明できる能力を指します。当たり前ではありますが、社会においては信頼性の高い成果を示して、自分の活動をきちんと合理的に説明できる組織が、生き残る確率を上げることになります。味が安定せず、何が入っているかが示されないような食品を消費者は買いません。そのような食品を作る組織は、遠からず環境によって淘汰されてしまいます。特に、医療や食品などのリスクを伴う場合や教育などでは、このような説明責任はより重視されます。
 このような信頼性と説明責任は、組織形態が日々継続して同様の活動をすることによって培われます。しかし、継続して同じ組織形態が続くことは、変化への抵抗を生んでしまいます。つまり、生き残るために信頼性と説明責任を高めることが、組織慣性を強くすることになっているのです。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』193頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018.2.1)】

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村修也・久保利英明・芦原一郎/中央経済社 2019.2.1)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 ここで示された信頼性と説明責任は、具体例として示されている食品や医薬の品質を考えれば、前回(#191)示された、会社組織の変革を阻む6つ目の要素のうちの、6つ目の「正当性」に特に関わるようです。
 実際、継続することによって、信頼されますし、継続すること自体が雄弁に説明責任を果たしていると言えるでしょう。この意味で、「老舗」と言われる会社(典型的には、創業100年を超える会社)が、多くの場合、信頼性と説明責任の問題を「継続」によって克服していることがわかります。
 特に、伝統産業の場合には、生活様式の変化などによって需要が縮小していくにつれて、生き残るための競争も厳しくなるでしょうし、後継者の確保や技術の伝承など、経営の基盤の維持も大変です。淘汰されて消えてもおかしくないのに、継続していられることが、さらに、信頼性や説明責任に対する強みとなっていくのでしょう。
 これを、リスク管理(リスクを取ってチャレンジするためのリスク管理)の観点から見た場合、事業内容や会社組織を変える、という選択ではなく、それまでどおりのやり方を維持する、という選択をした(チャレンジした)、と評価できます。厳しく、寂しくなっていく業界で、しかしそこにこだわり続けるからには、その業界の社会的な存在意義もしっかりと見極めなければなりません。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 これを経営者に対するガバナンスの観点から見ると、特に説明責任の概念は、ステークホルダーに対する説明責任としてみれば、経営者の立場を示す概念として非常に有用です。
 すなわち、典型的なガバナンスの問題、すなわち投資家である株主から経営者を見た場合の問題だけでなく、経営者は「適切に」経営しなければならない、会社は社会に受け入れられるからこそ継続して事業活動ができる、という企業の社会的責任や、それに関連する様々なルールを考えると、ステークホルダーの範囲は、株主だけでなくなります。会社の存在と活動を受け入れてくれ、評価してくれている社会全般がステークホルダーになります(それを、さらに細分化することも可能です)。
 まず、経営者は株主に対して説明責任を果たさなければなりません。会社経営が合理的であり、将来も株主に利益を配当できることを説明できなければ、経営者としての資質がないことになるからです。
 さらに、経営者は社会に対して説明責任を果たさなければなりません。会社経営によって作り出される製品やサービスが市場にとって魅力的であること、社会にとって有益であること、を説明できなければ、「適切に」儲けることができず、やはり経営者としての資質がないことになるからです。
 逆に言うと、経営者に対するガバナンスは、経営者に対して説明責任を果たさせ、説明内容を検証することが、その重要な要素になります。

3.おわりに
 前回の6つの要素のうち、2つの要素が、会社組織の変革を阻む外的な要因でした。
 ここで検討したように見れば、会社は社会との関わりがあるので、自分だけで勝手に変わるわけにはいかない、ということが理解されます。

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。


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