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経営組織論と『経営の技法』#156

CHAPTER 7.3:曖昧さの中での意思決定
 ここまで説明してきた最適化による意思決定であっても、満足化による意思決定であっても、問題があり、それを解決するという形で意思決定が行われていました。そして、それがより合理的になるように、さまざまな組織的な取り組みがなされる必要があると考えてきたわけです。しかし、実際の社会はもっと多義的で曖昧で不確実であることも多くあります。
 たとえば、私たちは本当に合理的な結果だけを求めて活動をするでしょうか。あるいは自分たちが何を望んでいるか、どこをめざしているかということを明確に理解しているでしょうか。そのような曖昧さの中で、私たちはこれまで示してきたような意思決定を行っているのです。
 たとえば、ランチタイムに、何を食べたいかわからず、考えているうちにどんどん変わってしまう、おいしいものも食べたいし、1人で静かに食べたいということも少なくありません。あるいは、たまたま廊下で一緒になった友人たちに連れられて食べた、というように、ランチは何にしようかという問いから探索する前に食べるものが決まってしまうこともあります。つまり、意思決定を行うためのさまざまな状況は実際には曖昧なことも少な くなく、そうなると、本当にここまで見てきたような合理的な意思決定ができるのかがわからなくなってしまうのです。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』157~158頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018.2.1)】

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村修也・久保利英明・芦原一郎/中央経済社 2019.2.1)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 これまでは、意思決定のモデルを学びましたが、そのモデルがぴたりと嵌らない場合にどうするのか、という応用問題が始まります。
 これを聞くと、全てをカバーできないモデルに意味がない、と感じるかもしれませんが、モデルはそのようなものではありません。シンプルにして物事をわかりやすくする、モデルによって多くの部分が説明できればそれで充分、という発想で見れば、物事を分析して理解するツールに使えることがわかります。
 法律の世界では、これに近い発想は、「原則例外論」「二分法」です。
 これは、まず原則ルールを定めます。たとえば、(今の時代に適合しているかどうかはともかく)書類にハンコが押されていれば、原則としてその書類の内容について、ハンコの本人の意思に合致する、と推定します。
 次に、例外ルールを定めます。たとえば、騙されたことが証明されれば、約束を解消できる、というルールを作ります。
 このように、原則はこうなるが、例外的にそうなる、と決めることで、ルールを整理するのです。
 したがって、モデルを理解することは、そのモデルが嵌る場合には、そのモデルが使えて便利ですし、モデルが嵌らない場合には、何か違う力学が働いているに違いない、と慎重に対応することができます。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 投資家である株主から経営者を見た場合、経営者こそ、ツールであるはずの経営上のモデルに縛られるのではなく、ときにそれを活用し、ときにそれと異なる切り口からアプローチできることが必要です。経営モデルからいえばこうなるはずだ、という頑ななマネジャーがいたら、その人の頑なな部分が生きる場面で活用するのが経営者であり、その方法論が正しいかどうかを一緒になって議論するのが経営者ではありません。
 このように、意思決定のモデルは、その型に当てはめるためのものではなく、その適性に応じて使いやすいツールを選択し、使いこなすものなのです。

3.おわりに
 会社組織論は、絶対的な真理を見つけ出すのではなく、使えるツールを見つけ出す学問である、と考えています。そうすると、便利なモデルも、それが万能でなければ意味がないのではなく、使える場面と使えない場面がしっかりとわかれば、それで十分有意義です。万能工具も、万能薬も、世の中に存在しないのと同じです。

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。


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