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松下幸之助と『経営の技法』#240

10/12 不況は人力で転換できる

~人間が作り出したものは、人間の精神意識によって転換できる。~

 不況とか混迷というものは、我々自身お互いがつくり出したものである。政府当局も一緒になってお互いにつくり出したものである。だから、これは必ず我々の精神転換、考え方の転換によって直すことは可能であるということを、これははっきりと申しあげられると思うのであります。
 しかし、私1人で言っても、もしそれが一般に信じられず、”その通りしよう”という力強い動きが生まれなかったら、言うだけで何もならないと思うのです。けれども私は、そういうようにお互いが、こういうふうにやらなければいけないということで、幸いにして皆さんのお考えが一致し、また政府当局もそういうことを配慮されてやられたならば、これは必ず直ると思います。天然現象であれば、これはもう我々の人力では及ばないこともあるわけですけれども、これは人為現象である。したがってお互いの精神意識によって転換することができるものですから、これは必ず直るだろうと、そのように思うのであります。
(出典:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

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1.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 まず、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 今日の話は、一昨日(10/10の#238)と昨日(10/11の#239)の話を合体させて、結論を出したものです。すなわち、景気循環(ここでは、その中でも不況)は、自然現象ではなく人間がつくり出したものであり、コントロール可能であること(10/10の#238)、その中でも、人間の欲望に基づいた行動によって景気循環が生じるが、理性的な人間はこの困難を克服できること(10/11の#239)、が述べられてきました。その上で今日は、市場参加者全員と政府当局者が、精神転換、考えの転換、考えの一致、配慮、等があれば、不況や混迷は必ず直るだろう、と説いているのです。
 具体的にどのようにコントロールするのか、ということが明らかではないのですが、競争を重視する氏の考え方からすると、計画経済のような「生産」側に重点を置いた方法ではないでしょう。むしろ、一昨日に景気循環の原因を人間の食欲に例えていたように、「消費」側に重点を置いた方法をイメージしているようです。
 現実には、消費者の嗜好が多様化し、細分化しており、消費者の理性的な行動による経済のコントロールとは程遠い状況になっているように見えますから、松下幸之助氏の予想は外れている状況です。
 けれども、経済学者でないからと言って経済について自分なりの見識を持つことが悪いわけではありません。会社経営に経済状況が大きな影響を与えることを考えれば、自分なりの経済観はむしろ必要となるはずです。近時は、経済誌やテレビ番組などでも、経営者の日経平均株価予測などが取り上げられるようになってきましたし、経済状況を測る指標にも、経営者の経済見通しを集計した指標が採用され、しかも非常に重要な指標とされています。
 こうしてみれば、当たったか外れたか、が問題なのではなく(もちろん、当たった方が良いが)、会社という船が公開している海の状況とも言える経済状況に対し、常に興味を持ち、その真理を見極めようとし、実際の経営に生かそうとしていることが重要なのです。

2.内部統制(下の正三角形)の問題
 次に、社長が率いる会社の内部の問題を考えましょう。
 この点も、一昨日や昨日の話が同様に当てはまりますから、そこで検討した内容を確認します。
 すなわち、経済動向に関する経営者の知見を実際の経営に活用する仕組みや、経営者に変わって経済動向を調査研究する専門の担当者を置くなど、経済と付き合うための仕組みが、会社組織にも必要です(10/10の#238)。
 また、経営も人間心理の問題であり、だからこそ、松下幸之助氏は経済における人間心理に対して興味を持ち、独特の経済観を作り上げたと思われます(10/11の#239)。

3.おわりに
 松下幸之助氏と逆に、経済に対する興味のない経営者も、たまに見かけます。経済を気にしなくても良い、安定的な顧客と需要があるか、安定的な需要を作り出してしまった(技術力や抜群のブランドイメージ)場合です。
 そうでない、大多数の会社の経営者は、会社という船が航海している海の転機に無関心で良いはずがありませんから、経済に無関心で良いはずがありません。そうすると、経営者がどうやって自分なりの経済観を身に着けるか、が問題になります。
 ひたすら学問として経済学を学ぶ方法もあり得るでしょうが、せっかく、実際にその経済の海に浮かんだ船を操舵しているのですから、経営に影響を与える経済の動きから、いわば定点観測のような方法で経済の動きを予想し、検証しながら、感覚を磨いていく方法もあるはずです。実際、経済学を勉強している、というタイプの経営者が経てる将来の日経平均株価予想よりも、自分の会社から見える経済状況から経済を語る経営者の日経平均株価予想の方が、当たる確率が高かった特集番組がありました。
 松下幸之助氏の語る経済は、理論的には非常に独特に感じる場合があっても、非常にセット的に聞こえるのです。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出典を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。

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