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経営組織論と『経営の技法』#116

CHAPTER 5.4.2:2つの行動と能力の発揮 ②人間関係志向の行動
 人間関係志向の働きかけのうち、個人への働きかけはモティベーションにプラスの影響を与えることが考えられます。うまく達成できたことを評価することは、自己有能感の向上や達成欲求の充足、あるいは自己効力感に良い影響を与えると考えられます。また、励まされることで努力が結果に結びつく確率を高めるような効果も考えられます。
 しかし一方で、個別に配慮することは、メンバーの中での不公平を生む可能性もあります。特定の人だけの成果を評価することは、同じような成果をあげたにもかかわらず、評価されない人に不公平感をもたらします。ゆえに、併せて職場全体への配慮の行動が必要になります。
 また、親和欲求の充足という点でも、職場全体が良い雰囲気になることや、職場全体の人間関係がうまくいっていることは、プラスに影響すると考えられます。あまりにもリーダーと特定の個人が強い信頼関係で結ばれてしまうと、他の人たちとの人間関係にゆがみをもたらしてしまうこともあります。人間関係志向の観点からいえば、個人に配慮すると同時に、全体にも目を配る必要があるのです。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』119~120頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018.2.1)】

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村修也・久保利英明・芦原一郎/中央経済社 2019.2.1)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 リスク管理(リスクを取ってチャレンジするためのリスク管理)の観点から見た場合、人間関係志向のマネジメントは、タスク志向のマネジメントの欠点を補う面があり、上手に組み合わせるべきです。このことは、#114のところで、リスクセンサー機能を例に説明したところです。
 この組み合わせは、むしろ本来のビジネスでこそ重要です。
 前回の#115では、工業化の過程で機械化やマニュアル化が重要な役割を果たしたことを指摘しましたが、そこでは、人間関係志向のマネジメントも上手に組み合わされていました。
 それは、QCサークルやカイゼン活動と言われた日本発祥の活動です。アメリカの巨大企業GEに認められ、シックスシグマとして再構築されたものが、日本の会社にも逆輸入されていますが、考え方は同じです。
 これは、製造現場の従業員たちが、自主的にグループを作り、生産性の改善を勤務時間外の非正規の活動として行うものです。けれども、それによって業務改善されれば、会社が表彰しますし、毎年、複数のグループでその成果を競う一大イベントになっている会社もあります。自主的な集まりであり、成果は会社からの表彰ですから、業務命令に基づくものではなく、まさに人間関係志向のマネジメントが目指すところを、しかもマネジャー抜きで行っている活動です。
 つまり、社内ルールやマニュアル、業務指示などによってやらされる仕事ばかりではなく、自分たちがアイディアを持ち寄り、与えられた以上の仕事をやり遂げる、という仕事を組み合わせることで、工場の安定性と新規性が見事に両立し、生産性が向上したのです。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 投資家である株主から経営者を見た場合、人間関係志向のマネジメントが上手な管理職者を、そのようなマネジメントに適した業務やチームにあてがう、という適材適所を実践できることが、重要である、ということは、前回の#115の裏返しの問題として、理解できるでしょう。
 だからといって、株主が経営者に対して、人間関係志向のマネジメントをするかというと、これは考えにくいことです。会社法により、「所有と経営の分離」が構造的に確立しており、株主は経営に口出ししないのが原則だからです。むしろ、人間関係を密にしてモティベーションを高めてあげなくても、自分自身のモティベーションを自分自身でコントロールし、難局も乗り越えていくような強靭な精神力が経営者に求められます。経営者は、会社の部下に対しては人間関係志向のマネジメントを行う場合があったとしても、自分自身はそのようなサポートを他人に求めないような、そのような孤独な立場なのです。

3.おわりに
 ここでは、単純化するために、褒める褒めない、というようなわかりやすい具体例で説明されていますが、リーダーによるメンバーのフォローは、メンバーの個性に応じて多様です。
 傍から見ると不公平、依怙贔屓に見えるような対応でも、状況によっては、とても傷ついて弱っているメンバーだから必要な手厚いフォローをしているのであって、そのことをメンバーもよく理解していて、お互い様だし、自分がそうなったらやっぱりフォローして欲しいから、今はあの人をフォローしてあげてくれ、という場合もあるでしょう。メンバーとちゃんとコミュニケーションが取れていれば、これぐらい思い切った不公平も、かえって合理的になるのです。
 あるいは、さりげなく目を合わせて頷くだけで十分な人と、皆の前で大げさに褒めて欲しい人もいます。共通するのは、無関心ではない、というだけで、メンバーのフォローの方法は、千差万別、臨機応変です。
 いけないことは、「公平さ」にこだわりすぎて、誰に対しても不適合なフォローをしたり、誰に対してもフォローしなかったりすることです。メンバーの個性や状況に応じたフォローは、不公平ではありません。「公平さ」という言葉を、管理職者としての配慮のなさの言い訳に使わないようにしましょう。

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。


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