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経営組織論と『経営の技法』#249

CHAPTER 10.2.1:新人が学ぶこと ③自分の役割
 また、職場でうまく仕事をするためには、組織や職場における自分の役割を学ぶ必要があります。言い換えれば、周囲から自分が何を求められているのか、どのような役割を果たすことを期待されているのかということを学ぶのです。
 たとえば、新人であれば、まずは先輩のサポート役という役割を果たさなければならないかもしれません。そのときは、先輩の仕事がはかどるように書類をまとめることや準備を手伝うことなどを積極的にこなすことが求められるでしょう。
 一方で、職場や組織によっては、新人だからこそいろいろな意見を言ってほしいというケースもあります。新人は組織に染まっていない存在でもあります。そのため、組織や職場では新しいアイディアやこれまでと異なる視点を新人に提供してもらいたいと考える場合もあります。このような場合には積極的に意見を言うことが求められるでしょう。このように、組織や職場において、新人の役割は異なります。新人はいち早く、自分が求められている役割は何かを学ぶ必要があると同時に、自分の役割を見出していくことも求められているのです。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』228頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018)】

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村修也・久保利英明・芦原一郎/中央経済社 2019)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 ここでは、新人が学ぶべきこと、という題目ですが、実態は従業員の役割が2つに整理されて示されています。
 特に注目すべき点は、2つの類型の切り口です。
 受動的なタイプと能動的なタイプ、という切り口ではなく、サポートかメインか、という切り口です。
 一般に、一体性を重視する組織では、上司や経営の指示を忠実に遂行することが重視されますから、受動的なタイプが重用され、多様性を重視する組織では、いろいろな意見が出ることが重視されますから、能動的なタイプが重用される、というイメージがありそうです。
 けれども、引用した本文では、2つのタイプいずれについても能動的な積極さが必要、とされています。両者の違いは、サポートかメインか、という違いです。
 この違いが、組織として重視するポイント(一体性か多様性か)と直接結びつくものではないかもしれませんが、特にメインに関する業務(ここでは意見を述べること)は、組織の多様性につながります。他方、組織の一体性が重視される場面でも、その業務自体はサポート的な業務が中心になるかもしれませんが、積極的能動的に仕事に取り組むことが重要となります。
 会社組織をツールとして使用する経営の立場から見ると、組織を壊すわけにはいきませんから、ある程度組織の一体性を確保する必要があります。けれども、そのことがいわゆる「指示待ち」の受動的で消極的な態度で良いわけではなく、むしろそこでも能動的で積極的な仕事が重要である、ということを常に明確に打ち出しながら、従業員の意欲的な活動を促し、組織を活性化させていくことが必要です。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 投資家である株主から経営者を見た場合、ワンマンタイプの経営者もその候補になるでしょう。部下に任せるよりも、無図から全て決めようとするタイプが、イメージしやすいでしょう。
 その際、ワンマンタイプの場合にはイエスマンばかり重用し、指示待ちで受け身の従業員ばかりになる、というイメージがあります。
 けれども、経営者や上司の指示を忠実に実行する従業員が全て受動的である、というわけでないことは、上記のとおりです。むしろ、組織が一致団結して機動力や突破力を発揮する場面では、経営者や上司の指示に従い、しかし積極的能動的に業務を行うことが求められます。
 逆の見方をすると、このような積極的で能動的な従業員がいれば、ワンマン経営者ならではの良さも発揮できると言えるでしょう。

3.おわりに
 指示に従うことが重要か、意見を述べたりプランを作ったりすることが重要か、ということは、経営組織の違いだけでなく、任された業務の違いや、権限の違いによっても異なってきます。さらに、同じ業務の中でも、この両者が混在していることがありますから、状況に応じて使い分け、組み合わせる柔軟さが必要です。
 仕事の要素を分析することは、理解するうえで有用ですが、実際にはそれを使い分ける柔軟さも身に着ける必要があります。

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。


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