見出し画像

経営組織論と『経営の技法』#34

CHAPTER 2.2.1:水平分業と垂直分業
 さて、私たちが1人では手に負えないような仕事を任されたとき、あるいは複数の人とある目標を達成しようとしたとき、どのように仕事を分けることができるでしょうか。その仕事の内容にもよりますが、大きく分けると、仕事の分け方にはヨコに分けるか、タテに分けるかの2つの考え方があります。ヨコ方向の分け方は水平分業、タテ方向の分け方は垂直分業と呼ばれます。
 たとえば、6人で120人分のカレーライスを作ることを考えましょう。まずヨコに分けることから考えていくとすると、どのような分け方があるでしょうか。1つは、1人が20人分を作るという分け方があります。これを並行分業と呼びます。並行分業では、分業された各々が同じ、あるいは類似した仕事を並行して行います。
 この並行分業の分け方には、作るべき数量をみんなで分け合うような分業だけでなく、別の分け方もあります。たとえば、地域によって分ける、顧客によって分ける、といった具合です。もしカレーライスを出す店を2店舗作るのであれば、店舗ごとに仕事を分けることになりますし、あるいは子ども向けの辛くないカレーライスと大人向けの辛いカレーライスを作るのであれば、その顧客にあわせて作る人を分けるという分業になります。どちらもそれぞれ分業された人々はカレーライスを一から作っている点では同じです。また、時間によって分業することもあります。カレーライスを長時間提供することになった場合、担当を午前と午後といったように分けて、シフト制で分業を行うことが考えられます。
 もう1つの分け方は、カレーライスを作るプロセスを6つに分けて、6人みんなで120人分を作るという分け方があります。たとえば、食材(肉、じゃがいも、にんじん、たまねぎなど)を切る、そして炒める、煮る、味付けをする、というように手順(行うべき機能)ごとに分業をするわけです。このような分業を機能別分業と呼びます。
 カレーライスを作ることを作業の機能別に分業する場合は、切る、炊く、調理する、味付けをするというように分けることもできますが、提供するものによっては異なる分け方をすることもできます。たとえば、幕の内弁当を作るのであれば、魚を焼く、煮物を作る、揚げ物を作る、などをそれぞれの総菜を調理するといった分業ができます。
 ヨコの分業がわかったところで、次にタテの分業を考えていくことにしましょう。垂直分業の基本的な考え方は、考える人と作業する人を分けるという考え方です。炊き出しや模擬店などであれば、鍋に120人前のカレーをあらかじめ作っておけば、お客さんが来たら皿によそうだけで済みますが、お店としてカレー店を始めようとすれば、天気や気候に合わせて作る量を調整する必要もありますし、ずっと同じメニューというわけにもいかなくなるかもしれません。あるいはお店が好評であれば支店を出すということもあるかもしれません。
 このようにカレーライスを作るという作業だけでなく、考えるということが必要になる場合もあります。このとき、作業するタスクと考えるタスクを分けるのがタテの分業になります。もちろん、1人の人が、昼間はカレーライスを作り、店が終わった後やお休みの日に今後のことや新しいメニューのことを考えるというように分業することもできます。オーナーシェフと呼ばれるように、料理にも責任を持ち、一方で店のオーナーである人は、オーナーとして店のありようを考える行動だけでなく、調理場に立って調理をする人もいます。しかし実際は、作業をすることと考えることは求められる専門能力が違うために、別の人が行うことのほうが有益でしょう。これは他の分業についてもいえることです。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』27~29頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018.2.1)】

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村・久保利・芦原/中央経済社 2019.2.1)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 ここで、分業にも実に多様な方法のあることが理解できました。
 しかも、巧みに示してくれているのが、状況や目的に応じて分業の方法が変わる、という点です。
 この点は、儲けるためのリスク管理を考える『経営の技法』の観点から見ると、非常に重要なポイントです。というのも、「リスク管理」という言葉を聞くと、たとえば内部管理を強くし、法務には社内弁護士を雇い、コンプライアンスマニュアルを徹底し、など、一般的な制度を何も考えずにそのまま導入して満足している会社が多く見かけられるからです。
 けれども、リスク管理は儲けるためのツールです。適切にリスクコントロールして、チャレンジするからこそ、会社は儲けることができて成長することができるのです。
 そう考えると、儲けるための仕事(カレーライスを作る仕事)について、状況に応じた分業がこれだけ多様にあるのですから、リスク管理体制も、会社の状況に応じた制度設計が多様にあるはずです。ビジネスモデルであれば、仮に他社のモデルを参考にしても、真似してそのままで終わらずに、会社にあったモデルに修正し、工夫するでしょう。リスク管理態勢も、他社の制度や、書籍に書かれている制度そのままにするのではなく、会社にあったモデルに修正し、工夫すべきです。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 株主と経営者の関係から見ると、分業の在り方は、経営者に託された問題であり、通常であれば、とやかく口を出す問題ではありません。「所有と経営の分離」が、制度上、構造的に確立しているからです。
 したがって、どのような分業形態にすべきかについて、株主は、どのような経営戦略を持つ経営者を選任するのか、という間接的な形で関与するのが、通常の形ということになります。

3.おわりに
 いろいろな分業の方法があることがわかりましたので、ここから、これを整理していきます。

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。


この記事が参加している募集

推薦図書

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?