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松下幸之助と『経営の技法』#233

10/5 心のつながり、無形の支持

~心持ち次第で、関係先と心がつながる。無形の支持を得ることができる。~

 先般、ある会社と仕事の関係ができて、そこの社長さんが訪ねてこられた。その時に、その人が持参されたお土産に私は非常に感銘した。それは私には私が主宰している『PHP』という雑誌の創刊号(注:昭和22年4月号)を、さらに同席した私どもの関係会社の社長には、その会社で10数年前に発売した電気カミソリの第1号製品を持ってこられたのである。
 そのような昔のものを読んでいただき、またお使いいただいたのかと思うと、私にはその社長さんのお心持ちが、いわば1000万円いただいた以上に嬉しく思われた。そして、そういう人が社長をしておられる会社と仕事の関係をもたせていただいたことが喜ばしく感じられたのである。その会社は、なかなか難しい業界にあって、第1位の業績をあげておられるということだが、やはりそれは、そうした社長さんのお心持ちが、各関係先と心のつながりを生み、それがその会社に対するいわば無形の支持を呼んでいるからではないかと思う。
(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

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1.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 取引先に誠意を示し、それによってビジネスを広げていくのは、営業の基本です。しかも、トップ営業です。このような営業活動の意味も、マーケティングとして非常に興味深いものですが、ここでは組織論上の問題について検討しましょう。
 組織として見た場合、トップ自らが「動く」ことに、どのような意味があるのでしょうか。
 ポイントは、これが業界1位の会社である、という点です。相当大きな会社、ということになりますが、そこでは当然、経営者からの権限移譲が相当進んでいるはずです。
 もちろん、権限移譲した以上は経営者は表に出てはいけない、というわけではなく、会社の実情に応じて経営者が直接乗り出す場面を決めていけば良いところです。ですから、この取引先のトップが直接あいさつに訪問することに、何か問題がある、というわけではありません。
 興味があるのは、どこまで権限移譲されているか、という点です。
 例えば、ワンマン会社やベンチャー企業に多く見かけるような、すべての案件や従業員の動向について、自分が関与し、判断しなければ納得できない、という体制の会社では、業界1位の大きさになるのは至難の業です(会社の大きさが、経営者の目や手の届かない大きさになってしまうから)。
 他方、対極にあるのが、従業員の自主性や多様性を重視し、どんどん権限移譲して任せるタイプの経営モデルです。これは、松下幸之助氏がかなり早い段階から採用し、磨き上げてきた経営モデルです。
 実際は、この中間で、会社ごとの個性が反映されることになります。
 この観点から見た場合、相手方の会社は、「仕事の関係ができて」から、社長が訪問してきた様子です。経営者同士の顔合わせが、このように話がまとまってから行われていますので、両方の会社とも、かなりの部分を権限移譲して任せていることがわかります。このように、お互いが現場に任せてうまくいっている経営者同士、という点も、意気投合した背景事情の1つかもしれません。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、経営者を選ぶ際に参考にすべき経営者としての素養を、松下幸之助氏の言葉から読み取りましょう。
 ここでは、相手方の社長の姿から学ぶべきことですが、どんどん権限移譲し、信頼して仕事を任せ、実際に「仕事の関係」ができるまで関与して、口出しもおそらくしていないでしょうが、他方、「仕事の関係」ができると、その関係を強くするために、サポートに自ら動いています。これこそ、任された人が、任されたことを実感し、遣り甲斐を感じる関わり方でしょう。
 このように、経営者にとって、単に権限移譲するだけでなく、任された人の気持ちを考え、同時に取引先との関係強化にもつながるような形で上手に介入できることも、重要な資質なのです。

3.おわりに
 相手方の社長が、昔の書籍や古い製品を、発売時点で購入していたのか、訪問の機会に購入したのかはわかりませんが、それはどちらでも良いのでしょう。
 たとえ後者であっても、これからお付き合いの始まる相手のことを知りたい、という気持ちの表れだからです。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。

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