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経営組織論と『経営の技法』#213

CHAPTER 9.2.2:キャリアアンカー ⑧純粋な挑戦
 7つ目は、純粋な挑戦と呼ばれるキャリアアンカーです。純粋な挑戦をキャリアアンカーに持つ人は、仕事の中で何事にも、あるいは誰にでも打ち勝つことができるということを強く感じていることが特徴です。不可能と思える障害を克服することや、解決不能と思われてきた問題を解決することが大事だと考えます。そのため、過去に他の人も手がけてうまくいっているような仕事は、新奇な仕事であっても彼らの欲求を満たしません。他の人にはできなかったこと、あるいは誰もやったことがないことというのが彼らには重要であり、仕事において自己を試す機会がないと退屈を感じてしまいます。仕事でも難しい局面にぶつかると、がぜん燃える人がいますが、そのような人は、このキャリアアンカーを持つ人かもしれません。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』207~208頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018.2.1)】

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村修也・久保利英明・芦原一郎/中央経済社 2019)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 この、「純粋な挑戦」というキャリアアンカーと、以前検討した「起業家的創造性」というキャリアアンカー(#211)は、新しいことにチャレンジする、という点で共通します。
 その違いはどこにあるのか、ということですが、「起業家的創造性」では、新しいビジネスを創り出すことをチャレンジするのに対し、「純粋な挑戦」では、ビジネスとして成立するかどうか、という点ではなく、どこか損得勘定抜きにチャレンジする点が、異なる点であるようです。
 したがって、起業家としてみると本当にうまくいくのかどうか心配になります。エネルギーの対象がビジネスにピタリと嵌れば、きっと物凄い突破力と影響力が発揮されるでしょうが、嵌らなければ非常に苦労しそうです。このように見ると、このタイプの人は、大きな会社や機関で、儲けることを心配せずにチャレンジしてもらい、ビジネス化は、周囲の人たちが担当する、というような役割分担が現実的に思われます。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 ビジネスとしての合理性を考慮しないのであれば、経営者には向いていません。経営者は、株主から託された資本や機会を使って「適切に」「儲ける」ことがミッションだからです。
 もしそれでも経営者にするというのであれば、この経営者に代わって、会社組織をしっかりと掌握し、実際に経営を行う参謀が必要です。テレビドラマなどでも、技術に対する拘りとカリスマ性が半端ない経営者と、それをサポートする現実主義者の参謀、という組み合わせはよく見かけるところです。

3.おわりに
 この「純粋な挑戦」タイプは、諦めが悪いのが問題です。経営はチャレンジすることが必要ですが、そこでは新しいことを手掛けるだけでなく、逆に損害を拡大させないために諦めることも重要です。チャンスを失う、というリスクを取って、損害を拡大させない、というチャレンジをするのです。
 その際、この「純粋な挑戦」タイプにチャレンジを諦めさせるのが、一仕事になってきます。

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。


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