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経営組織論と『経営の技法』#176

CHAPTER 8.2:組織のコンティンジェンシー理論
 続いて、環境と組織の関係について見ていくことにします。組織か市場か、という選択をとることができたとしても、依然として組織の外側には環境があります。環境との付き合い方のもう1つは、環境に適合することです。つまり、自分たちの都合で合理的に組織形態を考えるのではなく、環境に見合った組織形態を考えることです。
 たとえば、環境が安定的でほとんど長期的に変化がないような組織においては、標準化を進めることでより合理的になると考えられますが、しばしば環境が変わる場合には、標準化をすれば、すぐにそれとは異なる方法が求められることになり、以前のままで活動していても、環境が変わるごとに標準化を行っていては、無駄が多くなってしまいます。
 サッカーではセットプレーなど、ある程度決まった形で行える場合には、フォーメーションをあらかじめきちんと決めることで得点の確率を上げることができますが、通常のプレーにおいては環境は目まぐるしく変わりますから、いちいち誰にパスを出して、誰がシュートを打つのか、といったように、フォーメーションを決めておくのは無駄が多すぎます。そのため、どのようなプレーをするかは、大まかな指示を除けば現場の選手に任せているのが通常です。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』179~180頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018.2.1)】

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村修也・久保利英明・芦原一郎/中央経済社 2019.2.1)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

2つの会社組織論の図

1.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 今回も、ガバナンスの問題から検討しましょう。
 しかも、普段のガバナンスの問題は、株主による経営者の監督・コントロールの問題が中心ですが、この章では、市場取引の問題として、また違う見方をすると、市場環境という外的な要因によって会社組織がどのようなコントロールを受けるのかについて、検討します。
 経営者のミッションとしてみると、端的に「儲ける」ことがミッションなのですが、それは会社組織の活動によるものです。その活動は、市場での競争が中心で、審判は顧客です。顧客がその価値・有用性を認めてくれるから、製品やサービスを購入してくれ、「儲ける」ことが可能です。
 ところが、最近の数多くのさまざまな偽装問題(食品、素材、建築など)で、危機に瀕した会社が多く出たように、会社組織やその活動は、市場や社会に受け入れられなければなりません。
 しかも、一発勝負ではなく、継続的に「儲ける」ことが必要ですから、継続的に市場で勝ち続けなければなりません。市場や社会に受け入れられずに、追放処分を食らうことになると、継続的に「儲ける」ことができなくなってしまい、ミッションを果たせなくなるのです。
 このように考えると、会社経営者のミッションは、「適切に」「儲ける」ことである、すなわち「儲ける」には「適切に」という修飾語がつく、と考えられます。例えてみれば、プロ選手として競技に参加するのが会社経営であり、その競技で勝利することがミッションであり、そのために社会や市場から追放されないように参加資格を獲得維持し、実際の競技でも、その種目(市場)に応じたルールや必要な技などを駆使して競技を行うことになります。
 すなわち、ガバナンスの観点から見ても、経営者は、本章のテーマのように、競争環境に合った競争をすることが求められるのです。

2.内部統制(下の正三角形)の問題
 そして、競技に参加するスポーツ選手をイメージすれば、会社組織はその「体」に該当します。
 この連載で、何度も指摘するように、その競技で勝つための体を作ることが大事ですので、会社組織も会社のビジネスやビジネス環境に合わせる必要があります。
 このことを、これからより掘り下げて検討することになります。
 また、ここでは標準化と柔軟性が対比されて、環境に合わせることの具体的なイメージを説明しています。標準化は、品質の安定につながり、逆に柔軟性を優先すると、品質が不安定になります。このような中で、状況に応じてバランスを見極めることが重要、ということになります。

3.おわりに
 標準化と柔軟性は、相反する面もありますが、両者の違いは程度の問題、という見方も可能です。
 すなわち、マニュアルなどで運用を厳格にするということは、運用を変更する権限が現場にはなく、部長などの然るべき管理職者にある、ということになりますが、柔軟性を高める場合には、運用を変更する権限が現場に降りてくる、ということになります。組織内での判断権限、というツールから見ると、標準化と柔軟性は、その程度が違うだけであって、対立するものではない、ということがわかります。
 では、どのように整理するかというと、天秤の一方に安定性、他方に柔軟性、この両者のバランスを取るための支点の位置が、組織内の判断権限の位置によって調整され、定まる、という整理ができるでしょう。

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。


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