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経営組織論と『経営の技法』#71

CHAPTER 3.4:人間関係論の誕生
 科学的管理法とその考え方は、その後多くの研究者や実践家によって最適な労働状況を科学的に検討されることで広く受け入れられていきます。組織作りを経験や場当たり的に考えていくのではなく、科学的に作業条件を検討し、効率的な最善の方法を探索していくことによって、エ場などの生産性は飛躍的に伸びていくことになります。現在でも、科学的管理法の考え方は、ファストフード店などで典型的に見ることができます。
 たとえば、ハンバーガーショップでは、わかりやすく、細かくマニュアルができています。また、迅速にハンバーガーなどを提供するために、独自の機械や道具が作られていますし、店における配置も科学的に検討がされたうえでレイアウトされています。これによって、経験の浅いアルバイトでも簡単な訓練でハンバーガーが同じ品質、同じスピードで作れるようになっているのです。
 しかし、官僚制の逆機能と同様に、科学的管理法も必ずしもそれでうまくいくわけではないことが示されていくことになります。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』63頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018)】

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村修也・久保利英明・芦原一郎/中央経済社 2019)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 リスク管理の観点から見ると、科学的管理法は、リスク管理の精度も高めてくれる経営手法です。官僚的組織で、規則やマニュアルにより、現場が守るべきこととして定められれば、そこに定められたことはリスクコントロールされることになります。
 科学的管理法の場合、この規則やマニュアルがより精緻になるので、リスク管理の手法がより高度になっていきます。なぜなら、たとえば製品の歩留まりを高めることなども科学的に探究されさまざまな工夫が盛り込まれていますが、歩留まりを減らすことが、品質のリスクを減らすことになるからです。
 このように見ると、科学的管理法には、リスク管理の精度を高めるというメリットがありますが、メリットだけでなく、デメリットもあります。そのため、科学的管理法のどの部分をどのように自分の会社で取り入れるのか、どのように修正するのか、を理解するために、科学的管理法の問題点を学びましょう。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 投資家として経営者を選ぶ場合、科学的管理法によって会社組織を磨き上げていく能力が重要な業種もあるでしょう。
 特にその場合に重要になってくるのが、これから検討する限界です。長所を生かしつつ、短所をできるだけ減らせることが、ツールを使いこなしていることになるからです。
 したがって、この場合に適切な経営者を選ぶためにも、投資家である株主は、科学的管理法の限界を学んでおきましょう。

3.おわりに
 日本史でも世界史でも、時代を区切って、それぞれの時代の特徴を際立たせることが、歴史を理解する最も基本的な研究手法です。
 けれども、逆に時代が変わっても、連続しているものがたくさんあります。
 たとえば、振り返ると平成時代と令和時代の違いを際立たせて説明される時代が来るでしょうが、今、平成から令和に変わった時代を生きている我々にとっては、平成時代と令和時代を分けて考えるほどの違いは、まだ見えてきません。
 このように見ると、官僚制組織と分類される会社組織の時代から、科学的管理法と分類される会社組織の時代への変化も、連続的な部分があったように見えますので、これから検討する、科学的管理法の次の時代への変化も、連続的な面があるようです。
 単純に、良い悪いの二者択一の問題ではなく、長所と短所を理解して使いこなすべき、組み合わせやポートフォリオの問題であり、その背景には、このように連続していて共通する部分がある、ということも考えておきましょう。

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。


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